「企業内人材育成」は過去の遺物になり始めている
私は、別にこうした施策が悪いといっているわけではない。必要な場面も多いだろう。ただ、なぜ3カ月の新入社員研修が必要なのか、なぜ管理職までそんなに長い道のりがあるのか。職場での育成はどういうプランで行われ、どういう進捗管理があって進められていくのか。こうしたことを言葉で説明してあげなくてはならないのである。
もともとよって立つ前提を共有していないのだから、説明なしでは、なぜ特定の人材管理の仕組みややり方が必要なのか理解できないのである。または人材管理の考え方に抜本的な変革が必要なのである。「終身雇用」時代の人事管理をそのまま実施していたのでは、長く勤めることがありえる未来のひとつになってしまった若者には拒否されるだけなのである。
考えてみると、海外の現地法人で、外国人従業員に対し日本企業特有の人材管理をやっていこうとするときと同じである。これまでは必要ではなかった気遣いまたは修正が必要なのである。これまでの想定を想定外だと認識して、より丁寧な人材管理を行わなくてはいけない点では同じである。
またこうした働く人の意識変化は、働く人自身にも大きなチャレンジを投げかけることも事実である。具体的には、継続的な学びの要請である。よく知られているように、これまでの働く人のキャリア開発は、企業主体、またはそこまでいかなくても企業と働く人との協働作業として行ってきた傾向が強い。特に大企業の中核従業員はそうであった。企業の提供した枠組みのなかで、働く人は自分のスキルを磨いてきた。
だが、ここまで見てきた働く側の意識変化は、企業の育成投資へのインセンティブを低下させる。また競争環境の変化により、企業は必要なスキルや能力を極めて短い時間で獲得することを余儀なくされ、企業にとってこれまでのような時間がかかる企業内育成を行う意味が減少する。企業内育成と長期雇用は、一方がなくなれば、もうひとつもなくなるのである。実際、米国では、すでにこうした傾向が進み、「企業内人材育成」は過去の遺物になり始めているといわれる。
またわが国の場合、そこまで極端な状況にならないとしても、今後企業は、コア人材(企業経営の中核となる人材)の範囲を絞り込み、多くの人をノンコア人材として扱うなかで、コア以外の人材に関しては、育成投資を減少させていくことが考えられる。
そして、コアとノンコアの区別は、本人の潜在能力だけではなく、企業のもつ経営戦略や事業戦略によって決まる場合も多いので、こうした状態には能力の高低や企業の経営状態にかかわらず、誰でも陥る可能性がある。そうした状況に対応するためには、1人ひとりがキャリアのうち、かなり長期間、学習を継続しなければならない。
図表2にあるように、最も勉強している課長レベルでも、仕事のための勉強をしていない人の割合が40%弱にもなる状態ではどうにも心もとないのである。若年層では勉強してない割合がさらに高い。リストラでも、自己都合退職でも、他の企業に移るためには継続的な能力開発が必要なのである。長期雇用を想定外に置いた後、その方法は自己投資しかないのである。