話を戻すが、ここで強調しておかなくてはならないのは、優良企業に就職していく優秀な学生が、どういう理由だとしても、内定をもらった企業から転職する自分をかなり現実感のある未来だとして認識していることである。また問題点や不適合感を解決するための転職という選択が自然になってきた。
その意味で、学生にとって「終身雇用」や「長期雇用」というのは、確実に想定外のものになりつつあるのである。1つの企業に長く勤めるということは、あったらよい姿だと思っていたとしても、彼ら・彼女らにとって可能性の低い未来になったのである。
そしてここで考えなければならないのは、企業側がこうした学生の意識転換にどこまでついていっているのか、ということである。表面的には「終身雇用は終わった」と言いつつ、施策面や出すメッセージでそうした脱却をはかっているだろうか。この若者たちは、長期的な就社を前提とせずに、今後の職業生活を送っていくのである。そしてその結果、多くの人事管理や経営の仕組みややり方を長期的に働くということを前提にしないで評価する可能性が高い。
例えば、少し前までは多くの企業で実施してきた、2、3カ月にわたる合宿形式の新入社員研修。サラリーマンとしての心構えを教え、これから長い間一緒に働く仲間としての基盤を築いていくために行われてきた。今でもやっているところはあるみたいだが、聞いた話によると、ある企業から、週末も拘束される長期合宿研修の知らせをうけとった学生が、この会社は「ブラック企業」ではないかと悩んでいたというのである。ブラック企業とは、労働基準法などの法令などに抵触したり、または抵触すれすれの労働を従業員に強いたりする企業のことだが、名前を聞いてみると、その企業は誰もブラックだと思うはずのない企業である。あまりにも無知ということなのかもしれないが、視点を変えると、この学生はなぜ3カ月間も、週末も含めて研修所に缶詰めになるのかが理解できなかったということなのだろう。もともとその企業で長く勤めることを想定していない場合、合宿による仲間意識や結束力をつくる目的が理解できないのかもしれない。
もう一つの例をあげるとすれば、課長など最初の管理職までの長い道のり。図表1にある調査結果によると、本格的な管理職である課長になるまでに、最速者の平均が14年程度、一般的な平均が20年以上である。長期に雇用されることを前提としないと、そこまで待てないという若者も出てこよう。
さらには若年層の育成のために行われる上司の職場育成。多くの場合、どのぐらいの期間でどこまで到達するかなどに関するプロセスの共有化をせずに、とにかくOJTが行われることが多い。または「おまえを一人前にするために必要なんだからな」程度のざっくりとした説明だけで始まってしまうOJT。先の見えない状況のなかで、なぜそのOJTに積極的に参加しないといけないのかを理解せずに退出してしまう人も多いだろう。