働く人にとって「終身雇用」神話は崩壊しつつあるが、企業における人材育成のプロセスはこの意識変化に対応していない。就職活動中の学生の本音から、企業の人材管理に対する考え方を抜本的に変革するための方法を筆者は説く。

例年に比べて遅くスタートした学生の就職活動

私が勤める大学では、学生のシューカツ(就職活動)が花盛りである。2013年4月卒採用のシューカツは、経団連による要請で、11年12月1日から会社説明会などを開始、選考開始は12年4月1日からという日程で進んでおり、多くの企業が経団連の指針にしたがったことで、これまでの年に比べて少し遅くなっている。

特に私にとっての問題は、本格的な面接開始が4月にずれ込んだことで、授業やゼミが機能しにくくなったことである。これを書いている4月下旬になって、早々に内定をもらった学生が学校に出てこられるようになって、少しずつ平常の状態を取り戻している。

そして例年どおり、経営学のなかでも主に人や組織の問題を扱っている教員として、複数内定をもらった学生から、「どこにいけばよいのでしょうか」という相談を受けることも多くなってきた。私の主義として、○○社がよい、△△社に行ったほうがよい、とは言わないことにしており、私が知っている限りの客観的な情報を与えて、自分で決めさせるのだが、昨年あたりから、学生の質問の内容が少し変わってきたように思う。

それは、この会社に行くと将来転職できるでしょうか、と聞かれることが多くなってきているのである。昨年あたりから目立ってきたので、今年は、一応答えた後で、なぜ転職可能性について聞くのかを聞いてみることにした。

答えを聞いて少し驚いた。男性と女性で少し違うが、男性については、「いつかは会社がなくなるかもしれないから」「自分がリストラにあう可能性があるから」「自分が仕事の内容や会社の文化に合わないと感じるときがくるかもしれないから」などが多い。女性はそれに加えて、「出産や子育てで、会社を辞める必要があるかもしれないから」などの理由があがる。または「地域を超えた転勤ができない可能性があるから」というのもあった。

言うなれば、今の学生たちは、どこかの時点で会社からリストラされ、いつかは転職しなければならないという不安や、または与えられた仕事と不適合感があったり、さらには出産や育児などの人生上のニーズを優先させたりすることで、働き始める会社を退社する可能性をかなり現実みのある感覚としてもっているのである。またリストラ以外の自己都合のように見える理由も、観点を変えると、会社の方針や人事施策が自分のライフスタイルと合わないということであり、純粋な意味での「自己都合」ではないのである。よくアンケート調査などに見られる新入社員の長期雇用志向の高まりなども、こうした不安感と漠然とした予測の裏返しとしての願望の表れであろう。