借金が嫌で、資金は貯蓄の範囲内

――そうなると開業資金の貯蓄や、お店を出すためのリサーチも当時から始めていたんですか。

このあと順を追ってお話しますが、開業を急きょ決めたという経緯があるので、特に資金の準備はできていませんでした。ただし借り入れをするのは嫌だったので、私の貯蓄でできる範囲ということで、開業資金は保証金や内装工事を含め、200万~250万円程度に抑えました。「居抜き」「一人でもできる広さ」「隠れ家的で駅から離れていてもいい」というようにあまり贅沢な条件を求めなかったので、この資金でも開業できました。リサーチに関しては、もともと趣味が食べ飲み歩きなので、勉強と意識することなく日々が情報収集になっていましたね。

――開業は急きょということでしたが、いつかは自分のバーを、ということで具体的にアクションを起こしたのはいつ頃ですか。

焼酎アドバイザーの資格を取ったのが2007年。その頃には頭の中で具体的に思い描き始めていました。実は私は双子でして、よく双子の妹と、「ふたりでバーをやりたいね」と話していたんです。しかし近年、妹が沖縄に移住し、向こうでの生活を満喫していて戻ってこなくなり、合わせて会社での仕事も軌道にのっていて……。この2つがネックとなり、バー経営にすぐには向かえずにいたんです。

――なんだか、夢だけで終わってしまいそうな展開ですが、「やりたいね」が現実化したのは何がきっかけでしたか。

これまで長く従事してきた編成職から、マーケティング職という数字を管理する部署への異動が決まりました。いわゆる管理職です。現場主義の自分にとっては、これがひとつの区切りのように感じられました。

――なるほど。内示の瞬間に、バーが思い浮かんだ(笑)。

はい。まさにその瞬間に。その後、数カ月後には最初の物件を契約することになります。

――それは強烈に背中を押してもらいましたね。しかし、内示があって即行動。かなり無茶ですね(笑)。上司には、「私はバーをやります!」と言って辞めたのですか。

違います。

――やっぱり(笑)。

「一身上の都合で」と言って退職しました。ただし私がいつか飲食店をやりたいというのは上司・同僚のあいだでは周知のことだったので、いずれ体調が戻り次第そちらの道へ行くかも知れないということは言い残していきましたね。その後、ここまで早かったとは、と驚かれています。