自分が好きなことを仕事というカタチにしているヒトたちを追う本連載。ファッション通販サイト「マガシーク」を立ち上げた井上直也さんの後編です。(前編はこちら)
井上直也(いのうえ・なおや)●マガシーク代表取締役社長
1965年生まれ。1987年早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事に入社。ユニフォームを扱う部署、香港勤務を経て、2000年マガシークを立ち上げる。2006年11月には東証マザーズへの上場を果たす。趣味は料理で休日は3食つくる。香港時代に覚えた中国料理は北京ダック以外ならなんでもつくれるという腕前。よく読む本は、時代小説とビジネス書を互い違いに。特に好きなのは『竜馬が行く』。息抜きには海外ドラマを楽しむ。健康法は、夫人との情報交換を兼ねた1万歩ウォーキング。
柴田励司(しばた・れいじ)●インディゴ・ブルー代表取締役社長
1962年、東京都生まれ。85年上智大学文学部卒業後、京王プラザホテル入社。在蘭日本大使館、京王プラザホテル人事部を経て、世界最大の人事コンサルティング会社の日本法人である現マーサージャパン入社。2000年日本法人社長就任。その後、キャドセンター社長、デジタルハリウッド社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任して現職。
連続赤字の危機をi-modeで乗り切る
――周囲から不安視されたり、軌道に乗る前など、心が折れてしまうようなことはなかったですか。
はじめた以上、「失敗した」と言われるプロジェクトはやりたくなかった。商品のトラブルがあったときでもユーザー数は増えていたので、なにかやりようはあるだろうと思って乗り切れました。
――それにしても、普通の社員であれば、社内でファンドから5000万円をもらうなんてことはあまりないと思うのですが、失敗したらどうなるんだろう?なんていう思いはなかったですか。
クビになることもないし、殺されることもないだろうと、やれるだけやってみようと思っていましたね。
ただし、そんなに時間的余裕はなかった。3期連続赤字だと、事業や課を潰すというのがルール化されていた中、2期連続の赤字。早急に策を練る必要があり、携帯に目を向けました。「ファッションはi-modeで買う」という共同キャンペーンができないかとドコモにもちかけたのです。
まだ携帯がやっとカラーになったような時代。ドコモはビジネスマンには支持をされていましたが、女性ユーザーを握れていないという弱点もあり、ちょうど利益が一致したんです。こうしてドコモとの共同販促により黒字化を実現。軌道に乗ったと周囲にも認められるようになっていきました。
この段階になると経理などのさまざまなシステムも商社のそれとは合わなくなってきており、売上高10億円くらいの規模になった段階で、自然なカタチで外に出ていくことになりました。03年の春に、伊藤忠100%子会社として、プロジェクトチームから「会社」にしていただきました。
ここからはどんどんスピードアップしました。04年頃にはもうたくさんの証券会社がきていました。「早く上場しましょうよ」という具合で。上司に相談すると、やってみたらどうだとの返事。もともと上場ありきではなかったのですが、僕としても伊藤忠にどうやって恩返しができるのかと考えたときに、キャピタルゲインというのは1つの大きな成果だと考えました。自分の力で0から100億が作れたというのは自分の仕事として価値があるのかなと考えました。