安全装置の設置義務化は早急に進めるべきだが…

またしても悲しい事故が繰り返された。静岡県牧之原市の認定こども園で3歳の園児が送迎バス内に置き去りにされ死亡した。昨年7月に福岡県中間市の保育園で5歳の園児が同様に送迎バスに取り残されて熱中症で亡くなり大きなニュースになったばかり。保育園・幼稚園関係者は危機感を持ってそれを聞いたはずだが、残念ながらその教訓は生かされなかった。

通園バスが止まっていた駐車場に設置された献花台の前で手を合わせる人たち=2022年9月12日、静岡県牧之原市
写真=時事通信フォト
通園バスが止まっていた駐車場に設置された献花台の前で手を合わせる人たち=2022年9月12日、静岡県牧之原市

政府は事態を重く見て、送迎バスを持つ全国の幼稚園・保育所などを点検し、安全管理マニュアルの策定する「緊急対策」を10月中にもまとめる方針を示している。それでもマニュアルに沿って実際に行動するのは人間。ヒューマンエラー(人為ミス)をゼロにすることは難しい。

そこで、多くのメディアや識者からあがっているのが、人感センサーなど安全装置の設置義務付けだ。今回のようにミスがいくつも重なったとしても、子どもの命を救う事ができる仕組みを構築すべきだ、というわけだ。

実際、欧米などでは自動車にそうしたセンサーを取り付ける動きが広がっており、米国などでは標準装備として義務化する方向に動いている。日本に輸入する欧州車などの一部には、すでに置き去り防止のセンサーが装備されている車種もある。そうした安全装置の送迎バスへの設置義務化は早急に進めるべきだろう。

ヒューマンエラーは機械で100%解決できる問題ではない

だが、そうした安全装置を付ければ100%死亡事故が防げるわけではない。

あくまで機械だから、故障することはあり得る。定期的なメンテナンスやチェックも重要だが、それを担うのも人間だ。センサーの設置を義務付けても、そのスイッチをオフにしてしまうことだってあり得る。

毎年夏になると、送迎バスではなく、駐車場に止めた自家用車の中に置き去りにされ熱中症になる子供の話が報じられる。その多くが、買い物やパチンコに夢中になった母親が、車に待たせた(置き去りにした)子供のことをすっかり忘れたために起きる。あるいは「これぐらいの時間ならば大丈夫だろう」と“意図的に”置き去りにしている。こうした場合、仮にセンサーが付いていても、装置の設定スイッチをオフにするに違いない。

輸入車のカーディーラーによると、この装置が付いていると、コンビニで買い物をする時に、載せているペットが動くだけで作動してしまう。これを避けるために機能をオフにしている人も少なくないという。

今後、日本でもセンサーによる安全装置が標準装備になっていくに違いないが、それでヒューマンエラーがなくなるわけではないのだ。

送迎専用のバスならば、スイッチをオフにすることはないだろうが、機械のことだから、誤作動することはあり得る。誤作動を嫌ってスイッチを切る運転手が出てくるかもしれないのだ。