ある意味優良顧客を絞り込むチャンスでもある

しかし、いくら関係性を育んでいても、理解してもらえなかったり、受け入れてもらえないお客さんはいる。では、どうすればいいのか。

ここは考えどころだが、私はそういうお客さんは顧客にしようとしなくてもいいと思う。つまり「お客さんは選んでいい」。

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値上げは、自社にとっての優良顧客を絞り込むチャンスでもある。価格だけを求めていた顧客は、他にもっと安いものが生まれればすぐに移ってしまうだろう。しかし、価格を上げても流出しなかった顧客は、価値をあなたの商品や会社に見出してくれているということ。つまり、あなたの商品や店に意味合いを見出してくれているということだ。

ここにまず「値上げの作法」が一つある。

原口氏がそうしたように、自社・自店が価値あるものを提供し続けるための正当な対価を要求する。すなわち、必要であれば値上げをする。そのとき、その理由をはっきりと伝えるのである。

田舎町のスーパー店主が安売りをやめた理由

「顧客は選んでいい」と言われても、「ただでさえ少ない顧客を失うのは忍びない」という人もいるだろう。そういう人には、北海道の十勝地方にあるスーパー「デイリーショップヤマモト」の事例をご紹介しよう。

小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)
小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

この店があるのは十勝地方の幕別町という小さな町だ。しかも高齢者率が非常に高く、人口も減っていっている。にもかかわらず、値上げにはまったく躊躇がない。この店の名物であるプリンは、値上げする前の2021年3月にはひと月で246個売れていたのが、値上げ後の2022年3月には612個売れたという。実に2倍以上だ。

店主の山本氏は、「価格にうるさいお客さんが来なくなったので、いいお客さんが自然と増える好循環が起きている」「確かに1円2円で動く人もいるが、そのようなお客さんは自分の客ではない」と言い切る。

なぜ、言い切れるのか。

このようなビジネスをしていた結果、幕別町だけでなく、北海道の十勝地方全域から顧客が来るようになったからだ。

かといって別に、排除しているわけではない。価格だけを言ってくるお客さんにとっては「自分には合わない店、居心地の悪い店」になるので、自然と足が遠のくというだけの話だ。

だからあなたも「値上げによって既存顧客を失うかもしれない」ことを、あまり深刻に捉えないでいただきたい。もし、本当に意味のあるビジネスを展開することができていれば、どこかから新たに顧客が現れる。さらに言えば、今やネットを使えば商圏は世界中になる。「安売り」を止めた先にはきっと、あなたが本当に求めている顧客が現れるはずだ。

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