「けしからん妻」と「懐の深い夫」という不平等
【ドユン】私は物事をはっきりと言うタイプなんですね。周りからもよく言われるんですが、「男はみんな子どもが欲しいものだ。夫はやさしいから、気の強いお前のせいで黙って言うとおりにしてるんだ。子どもを欲しがらない男がいるはずない」と。そこで夫に聞いてみたら、「俺がそんなふうに見える?」と(笑)。それから「どうして子どもを産まないのか」と聞かれるときは、「うちはそれで合意したんで」と答えると、きまって「旦那さんもそれを望んでるの?」とまた聞かれるんです。この時に「夫のほうが望んでるんです」と言わないと会話が終わらない。これが簡単な方法だとは言え、癪に障りますよね。
※ドユン 39歳。結婚15年目。小学校教師で歴史教師のパートナー、猫5匹と京畿道城南に暮らす。
子どもを産まない女は「けしからん女」で、子どもを産まないことに合意した男は「いい人」と評価されるのは、「子どもを産まない女と暮らしてくれる男は実に懐の深い男だ」という認識から来ている。
でも、男性なら誰でも子どもが欲しいと言う言葉にこめられた真実は、男性たちは子どもという存在を渇望しているからというよりも、自分の体一つ傷つけることなく姓まで引き継いでくれる子どもを簡単に手に入れられるから欲しがるというのに近いはずだ。そして子どもがいないと家族が完成しないし、そういう家庭こそが維持する価値があると信じている人たちは、本気で子どもを望まない夫婦がいるという事実と、子どもがいなくても彼らが幸せな家庭を保てる可能性を信じようとしない。
「できないふり」をすることもある
両親でも兄弟姉妹でも、友人でも、ひいては義両親でもない赤の他人の干渉に疲れた子なし女性たちは、だんだん自分の立場を隠す戦略を選んだりもする。何人かのインタビュー参加者は「子どもができないふりをすることもあるし、そうすると気の毒がられてそれ以上訊かれないので」と話していた。(「この世に自発的なDINKはいない、子どもを産めないだけ」と固く信じる人たちに「皆さんは賢いDINKに騙されているんですよ」とささやいてあげたい。)
ジュヨンの場合はあえて嘘はつかないが、わざわざ全面突破もせずに、エネルギー消耗を最小化するための戦略を選んだ。
【ジュヨン】子どもがいないとすぐに離婚する、と言ってきた人とは別に、私のことを長く知っている別の上司がいて。その人は子どもを産めとか産むなとか一切言ってきませんが、ただ「ジュヨンさんに似た子はかわいいだろうね……」とだけ言っていました。職場で私のことをよく知らない人は、子どものことを聞いてきたりしますが、「あ、この人は私と話すきっかけが何か必要なんだろうな」と思うぐらいですね。結婚して時間が経ってるので今は「なぜ産まないのか」と聞かれたときに「タイミングを逃して」と言えることですね(笑)。
——あえて子どもが欲しくないとは言わないんですね?
そうです、産まないとは言いますが、「私は子どもを絶対に産まないって決めたんです」とは言いません。実際に親しい間柄の人とは、「これこれの理由で産まないわけで、だから今が幸せ」と話しますが、そこまで親しくない人をいちいち相手にしていたらきりがないし、話も大きくなって勝手に言いふらされますし。