育児の喜びでは補えないものがある

——産休中、育休中は、子どもはかわいいけれど、自分が世間から取り残されたような不安に襲われがちですよね。

【金沢】子育てをして子どもが愛しいという充実感と自分が今まで培ってきた個人としての業績は、まったく別物ですよね。私の場合は創作活動でしたが、それは育児の喜びで補えるものじゃない。でも、同時に子どもができたからこそ、それがきっかけになって「新聞紙のドローイング」を始め、完成させられたわけです。

金沢寿美《新聞紙のドローイング》2022年〔「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」森美術館(東京)2022年〕
 
金沢寿美《新聞紙のドローイング》2022年〔「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」森美術館(東京)2022年〕撮影=来田猛/画像提供=森美術館

うちの子は現在7歳ですが、今回、森美術館の展示を見てくれて、「すごい、いいね」と言ってくださって(笑)。「ところで、これいつからやってんの?」と聞かれたので、「あなたが生まれた時から」と答えたら、「おお、俺と一心同体か!」と喜んでくれました。当たり前ですが、子どもはいつか巣立っていくものなので、それとは別に自分の興味や関心があるものを保ち続けていると、人生は楽しいだろうと思いますね。それが仕事でも趣味でも創作や社会活動でも、なんでもいいので。

——いまだに女性に対しては「子どもが小さいときは子育てに専念、優先すべき」という考えが根強くありますね。

【金沢】私の母親もずっと働いていましたし、外に出るのが好きな人で、趣味も楽しんでいましたが、彼女の惜しみない愛みたいなものは感じて育ってきました。子どもにとっても、親には輝いていてほしいというか充実していてほしいのでは。でも、こういう「育児か仕事か?」という質問って、男性には問われないですよね。多くの場合、親は2人いるわけで、なぜ女性ばかりに問われるのかなとは思います。