「鉄道人員削減」の本当の狙い

米国でも追加利上げが行われ、個人消費は減少するだろう。国内では近距離の観光を目的とした鉄道利用が増える可能性はあるものの、それによってインバウンド需要の落ち込みをカバーすることは難しいだろう。

そうした展開が予想される中、鉄道各社は収益源を多角化しなければならない。特に、JR東日本のように売上高に占める鉄道事業のウエートが高い企業にとって、収益源の多角化は急務だ。そのための一つの方策として、国内において同社は不動産など非鉄道分野に人員を再配置する。それに加えて、社会の公器としてJR東日本が長期の存続を目指すために、経営陣はさらなる新しい取り組みの強化を目指すだろう。そのポイントは、データを用いて新しい需要をより積極的に生み出すことだ。

例えば、国内外の観光客の移動経路などに関するデータを分析し、潜在的に需要が高いと考えられる地域の魅力をより積極的に発信する。そのためには、地方自治体や国内外のマーケティングの専門家、航空各社など異なる分野との協力体制のさらなる強化は避けて通れない。JR東日本による鉄道事業人員数の削減は、さらなる成長のために新しい取り組みの強化は不可避という経営陣の決意の表れだ。

海外事業の徹底強化は急務だ

それに加えて、JR東日本をはじめとする鉄道各社にとって海外事業の重要性は一段と高まるだろう。経済産業省の資料(海外展開戦略(鉄道)2017年10月)を参照すると、わが国の鉄道業界は世界的に見て高い競争力を持っていると考えられる。

例えば、JR全体の事故率は、フランスや韓国、ドイツを下回る。各国の定義の違いもあるが、列車運行の遅れに関してもわが国鉄道各社の遅れは小さい。それに加えて、建設、運営、保守などのライフサイクルコストに関して、新幹線のコスト競争力は国際的に高い。そうした強みを新興国の鉄道運営企業に提供することは、JR東日本をはじめとする鉄道各社の収益力強化に無視できないプラス効果を与えるだろう。

2017年7月27日、宮城県仙台市を走るE5系新幹線
写真=iStock.com/MasaoTaira
※写真はイメージです

足許では生産コストの上昇、台湾問題の緊迫化懸念などを背景に、中国からインドやベトナムなどASEAN地域の新興国に生産拠点を移す多国籍企業は増えている。それによってインドなどでの鉄道利用客数は急速に増える可能性が高い。