コロナ禍前から鉄道利用者は減少している

それに加えて、2012年12月にわが国では総選挙が実施され、異次元の金融緩和を重視する安倍政権が誕生した。“アベノミクス”期待を背景に、外国為替市場では内外の金利差拡大観測が高まり主要通貨に対して円安が進行した。安倍政権は海外からの観光客増加などインバウンド需要の取り込み強化による地方創生も推進した。

その結果として、わが国を訪れる外国人観光客は増加し、鉄道旅客数が押し上げられた。しかし、中国経済の減速、新型コロナウイルスの感染発生などによって動線は寸断され、2019年度の旅客数は約252億人に減少した。2020年度は感染再拡大の長期化などによって約177億人とさらに減少が鮮明化した。

その一方で、インバウンド需要を除いて考えると、コロナ禍が深刻化する以前から国内の鉄道利用者数は減少していた。7月28日にJR東日本は利用の少ない線区の経営情報を公開した。

1987年度と2019年度、および2020年度の平均通過人員を比較すると、公表対象となった35路線、66区間のすべてにおいて利用者は減少した。いずれも収支は赤字だ。少子化、高齢化、人口の減少によってわが国の地方における産業基盤は脆弱ぜいじゃく化している。就業機会などを求めて都市部に移り住む人は増えた。コロナ禍の発生は利用者数をさらに減少させ、地方における路線の収支状況の悪化は鮮明だ。

通勤利用が減り、インバウンドの回復も見込めない

今後、わが国の鉄道各社を取り巻く事業環境の厳しさは一段と増すだろう。国内ではテレワークの定着などによって通勤や出張のための鉄道利用は減少した。また、インバウンド需要の増加も期待しづらくなっている。特に、中国ではゼロコロナ政策や不動産バブルの崩壊などによって景気が失速し、雇用環境は建国以来で最悪の状態を迎えたと考えられる。

基本的に、世界経済全体での観光需要は経済成長率に連動する。中国の経済成長率の低下はより鮮明となる可能性が高い。それによって、訪日客が増加した韓国や台湾、東南アジア新興国の経済成長にはマイナスの影響があるだろう。それに加えて、欧州ではロシアから供給される天然ガスの減少によって電力料金などが高騰し、欧州中央銀行(ECB)は金融引き締めを徹底して進めなければならない。