フリーアドレスの落とし穴

ただし、最近のオフィスで増えつつある完全自由なフリーアドレスは、かえって生産性が下がる場合もあるため注意が必要です。

三井デザインテックが心理学者でワーク・エンゲイジメントの専門家である島津明人さん(慶應義塾大学教授)、日本のクリエイティビティ研究の第一人者である稲水伸行さん(東京大学大学院准教授)と共にABWに関する調査研究を行いました。単純なフリーアドレスは、オフィス内で仕事内容に応じて適切な場所を選べず、自分の席が固定されていないため、ストレスが高まり、従来の固定席よりも仕事をするうえでマイナスの影響があると分かりました(※)

さらに個人だけでなく、チームワークにおいてもマイナスの影響が生じる可能性があります。

テレワークが進めば、オフィスのスペースも全員出社が前提だった以前ほどの広さは不要になります。その意味ではフリーアドレスも時代の流れに沿っているのですが、チームワークが必要とされる仕事や職種において、なおかつメンバー同士の相互理解が十分にされていない状態においては、フリーアドレスのような環境はかえって生産性を下げかねません。

必要な時に必要な人や情報につながれる状態がなければ、チームとしてパフォーマンスを上げられないからです。

最適な形はどれかを考える

メンバーの専門性を理解し、問題が生じた時に誰に聞けば解決するのか分かっている、かつ必要なメンバーにすぐにつながれるチームは強い。一方、お互いの専門性を十分に理解せず、かつ誰が今、どこで働いているかがすぐに分からないチームは結束力もパフォーマンスも停滞しがちです。

たしかに誰がどこに座るかが固定された状態で、周りにいるのはいつものメンバーばかりのように景色が固定されすぎると、新しい発想も生まれにくくなります。その中にウマの合わない人がいると、精神的にもよくないし、職場の雰囲気もギスギスしてきます。

その意味では、固定席の他にフリースペースがあって、気分を変える場所があるのは精神的にも職場の環境としてもとても良いのですが、チームがまだ十分に熟成されていないうちは、時間を決めて決まった場所にいるようにするとか、テレワークでも誰がどこにいるかが分かり、すぐに連絡できる状態にしておくほうが良いと考えることができます。

職場の物理的な居心地の悪さは精神的にも、また仕事の効率面でも悪い影響を与えます。だからといって大企業のように最新のオフィスをつくるのは現実的ではないでしょう。それでも働く人たちが少しでも快適に過ごせるよう工夫はできます。

トイレや食堂が混むといった場合、少し時間をずらせば混雑は緩和できます。休憩室やトイレをほんの少しきれいにするだけでも、働く人たちの気持ちは随分と変わるものです。

(※)三井デザインテック株式会社、島津明人、稲水伸行「Activity Based Working(ABW)に関する調査研究