実業団で競技継続ができない選手生命の“危機”に直面

市民ランナーから見れば「すごい結果」だが、トラック種目やハーフマラソンでは箱根駅伝ランナーにはかなわない。大学陸上部ではない選手を雇う実業団チームは見つからなかったのだ。

せっかくひとりで努力を積み重ね実績を残してきたにもかかわらず、このままでは競技継続ができない。選手生命の“危機”に直面した。こうなるとモチベーションが下がり、下を向く選手が大多数だろうが、岡山はここでも強靭な精神力で立ち向かう。

1都3県にスーパーマーケットを展開するコモディイイダに駅伝部があることを知ると、なんと選手としてではなく、一般社員として入社したのだ。

同社はニューイヤー駅伝を目指すチーム。駅伝部には箱根駅伝出場経験者やトラックを得意とする選手が多く、ケニア人ランナーも在籍している。「強化選手」になると競技に集中しやすい環境になるが、岡山は「一般部員」で通常業務をこなしながら競技を続けた。

 
   岡山春紀選手(写真=本人提供)

最初は「青果部」に配属され、埼玉県の朝霞店でスーパー店員として働いた。7時~16時が基本の労働時間(8時間勤務)のため、合同練習のタイミングも合わず、仕事前にひとりで練習することが多かったという。

学生時代よりも競技に費やせる時間が少なくなったこともあり、思うような結果を出すことはできなかった。3年間は一般部員として競技を続けたが、「限界」を感じていたという。

それでも2020年2月の愛媛マラソンで自己ベストを3分以上も更新する2時間14分53秒のチーム新(当時)をマーク。一般業務が大幅免除となる「強化A」に“昇進”した。

「あまり結果が出ていなかったので、実は退社しようかなと思っていたんです。市民ランナーでいいかな、と。自分のなかでは最後の挑戦として挑んだ愛媛マラソンが人生を変えました」

しかし、トラックの記録はさほど伸びず、1年後には一般業務を6時間こなす「強化B」に“降格”させられた。現在は「とくしまる事業」という部署に所属。軽トラックによる移動スーパーの営業を担当している。

「僕の仕事はお客さまを集めることがメインです。自宅訪問をして、チラシを渡して、説明するんですけど、話を聞いてもらえないことが多くて……。夏場は本当にきついです」

仕事はなかなかハードだが、岡山は夢を追い続けた。そして今年5月には以前から挑戦したかったというウルトラマラソンに初出場。秘められた才能が開花することになる。