どうしても「借金」を返した形にしたいなら永久債を発行すればいい

【井上】経済学では、政府と中央銀行を合わせて「統合政府」と言います。国債も通貨も統合政府の負債という意味では同じようなものです。ただし、国債は金利がついて通貨は金利がつきません。国債というのは言わば、金利付きの通貨みたいなもので、「借金」の証書と見なすのはおかしいとMMTでは論じられています。

また、自国通貨を持つ国の政府はそもそも通貨製造機を持っているので、「借金」をする必要がないと主張しています。国債発行の役割は金利の調整にあり、国債を廃止して金利を固定しようという提案もMMTにはあるくらいです。そういうわけで、自国通貨を持つ日本やアメリカのような国では、財政赤字それ自体は1200兆円あろうが2000兆円あろうが、過度なインフレにならない限りは何の問題でもないのです。

【宮内】どうしても政府が「借金」を返した形にしたいのだったら、永久債を発行して、日銀に保有していてもらえばいいわけですよね。日本政府の累積債務問題は、それで解決です。法律ひとつ変えたらできるレベルの話で、MMTを知った私としては「何を悩んでいるのか」と思うようになりました。

そういうことで私は井上学派の信奉者になりました(笑)。ここまでの説明、間違っていますでしょうか。

宮内義彦氏
撮影=小林久井

これまでに発行された国債は「なかったこと」に

【井上】いいえ、おっしゃるとおりです。井上学派になっていただいて、大変光栄です(笑)。

永久債というのは永遠に償還しなくていい、つまりお金に変えなくていい債券のことです。これまで政府が発行した国債を日銀が市中から買い上げた上で、それと同額の永久債を政府が新たに発行し、それを日銀が保有する国債と交換する。それにより日本政府は、日銀が買い上げた分の国債を償還する必要が永遠になくなります。これは英金融サービス機構(FSA)長官だったアデア・ターナーが2015年に提案した、累積財政赤字の解消方法です。

永久債にも交換する国債と同率の利子をつけるとすると、その利子は日銀の収入になり、日銀の収入は政府に上納されますので、実質的には政府は利子を払う必要がないことになります。つまり永久債は、存在しないのと同じ。これまでに発行された国債は「なかったこと」になるわけです。そんなことを行う必要もないのですが、おっしゃるように「政府が借金を返した形にしたい」のであれば、ターナーの提案通りに行えばいい。

日本銀行
写真=iStock.com/show999
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