濃いほどウケるが誤解や偏見とは紙一重
「世界のアキバ」を象徴する店の一つ「とらのあな」。成功を支えたのは、アニメやマンガの物語や人物設定を借りて、自由に創作を楽しむ同人誌だった。
1994年6月、10坪の店を秋葉原の路地裏に出したとき、同人誌を扱う予定はなかった。棚を埋めるために、知人の漫画家から売価の7割で仕入れた。当時、同人誌は年数回の即売会でなければ買えない貴重品。オープン当日から行列ができた。
以後、急速に店舗網を拡大。現在、全国で17店舗を展開し、09年6月期の年商は182億円。アルバイトを含めた従業員は800人を超える。
同人誌には流通の障害がある。同社は年間8000人の同人作家と取引を行い、仕入れは30部から。5000部超の作品もあるが、多くは300部程度。手間の割に、儲けは薄い。
「うちはインフラ会社。同人誌と商業誌を分けずに一緒に販売するのは、お客様からみれば同じだからです」(吉田博高社長)
全体の売り上げのうち、成人向けアダルト作品が約18%を占める。株式上場には10%以内という基準があるが、比率を抑えることは考えていない。
「うちの販売比率は、コアユーザーの購入する比率とほぼ同じはず。キャラクターが好きで、その延長線上で買うものですから、無理に抑えるのはおかしい」
オタク業界は性描写を含むアダルト作品でも“差別”しない。了法寺でイラストを描いたとろ美さんは、声優としてアダルト作品への出演を公表している。
「萌え米」の西又さんも、人気作品の多くはアダルト作品だ。JAうごの佐々木課長は、西又さんの作品を見たとき、「正直、ショックだった」というが、いまでは納得している。
「イラスト自身は性的なものではありません。西又さんも真面目に取り組まれており、活動を分けていれば、問題はない」
ただし誤解や偏見はある。西又さんがアダルト作品に現在も関わっていることから、取材を見合わせたメディアもあった。
「萌え」と「エロ」の境界に、チャンスとリスクが潜む。
※すべて雑誌掲載当時