度肝を抜かれた読売・渡邉恒雄社長の入社式のあいさつ
ストーリーといえば、私の記憶に強烈に残っている話があります。1991年、読売新聞社の入社式で聞いた渡邉恒雄社長(当時)のあいさつです。
じつは私は7年後に死にます。
その葬式に流す音楽のテープを秘書に渡してあります。
あまりにインパクトのある話で、度肝を抜かれました。
あれから、30年が経ち、たまたま見ていたテレビ番組で、彼がキャスターに自分の仕事部屋の引き出しにあった「テープ」を見せているシーンが映っていました。
まさにあのテープです。
そのテープは、彼が「戦争に出征する前の晩に、死を覚悟して仲間と聞いた曲だ」、としみじみお話になっていました。もしかしたら、入社式のときにはそんな話もしていたのかもしれません。なぜ、あんな話をしたのか、長年の謎が少し解けた気がしました。何十年経っても、脳裏に刻み込まれる「ストーリー」の力は無限大なのです。
【コラム:演説の上手な政治家・下手な政治家】
政治家は辻立ちや演説など、場数は多いので、うまいのかと思いきや、じつは「こりゃ、ひどい」というレベルのケースも少なくありません。最悪なのは、面白くもない政策の話を、つまらなそうに淡々と話す人。もしくは自分の主張をただがなり立てる人。政策は大切ですが、外交だ、コロナだ、医療だ、年金だ、と羅列してしまうので、くどくどとして、ちっとも面白くないのです。
ちなみに、ストーリーを上手に活用している政治家もいます。ある女性政治家は、演説会で、自分が小さいころ、幼かった弟のおむつを替えるなどの面倒を見ていたことや、親の介護で実家に帰ったとき、ゴミ出しに苦労した話を生々しく語っていました。
それまでの政策の話では退屈そうにしていた聴衆が、途端に身を乗り出し、聞き入っていたのが印象的でした。政策を羅列するより、身近なヒューマンストーリーのほうが100倍、人を惹きつけるものだと実感した瞬間でした。