ホストクラブで大金を使う女性たちは自分のことを「ホス狂い」と呼ぶ。彼女たちは何を求めて夜の街に通うのか。ノンフィクションライターの宇都宮直子さんの著書『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)より、40代の会社経営者「いちごチェリーさん」のエピソードを紹介する――。(第1回)
休日、誕生日、レストランでのパーティーでシャンパンとメガネスライド
写真=iStock.com/ParfonovaIuliia
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取材相手は「昭和生まれの人妻おねえさん」

2021年5月中旬。いちごチェリーさんに取材のアポをとりつけた私は、彼女が指定するバーへと向かった。「ホス狂い」を自称するいちごチェリーさんのプロフィールには〈昭和生まれの人妻おねえさん。担当と推しがいてくれるだけでしあわせ〉と書かれている。

一日数件、投稿されている内容も〈今日歌舞伎町いっちゃうもんね♪〉や〈本当にちょっとした事なんだけど、でも特別扱いされることって姫の特権だよね。〉など、〈被りは殺す〉〈ホストのいう辛いよりお金をつくるホス狂いの女のコのほうがよほど辛いわ(涙)(涙)(涙)(刃物)(刃物)(刃物)〉などという、他の“ホス狂い”たちの書き込みと比べるといたって穏やかなものだ。

待ち合わせは午後2時。昼なお暗い雑居ビルのバーで出会ったいちごチェリーさんは、40代前半。ふくよかな彼女によく似合う、深いブルーのロングカーディガンに、ゆったりとしたチュニックをあわせている。ゆるくウェーブのかかった黒髪をハーフアップにまとめており、化粧もナチュラルメイク。「ホス狂い」という言葉のイメージとはかけ離れている、物柔らかな雰囲気の上品な女性だ。

「そんなにヤバいところじゃない」と伝えたい

大抵の「ホス狂い」の女性は取材を断るのに、どうして応じてくれたのかと聞くと、「歌舞伎町のホストクラブというと、すごくお金がかかるとか騙されるとか、みんな怖いイメージを持っていると思うんですけど、そうじゃないよ、今は、ちゃんとしているところのほうが多いし、そんなにヤバいところじゃないということを伝えたくて……」

と、緊張した面持ちで、取材を受けた動機を明かした。そして、今回の取材の前にこちらからメールで送っていた質問内容への一問一答を、2枚のA4サイズの紙にワードでまとめたものを渡してくれた。

私からの質問を「Q」、それに対しての回答を、見やすいようにゴシック体の太文字で「A」として、「私はこう思ったのです」と、「です、ます調」の丁寧な口調で書き入れられた「回答書」は、10問ほどの質問に対して、同じ内容が被ることなく配慮もされており、かなり時間をかけて作られたものであろうことが推測できる。