人民元/ドル相場の動きに不確実性が伴うようになってきた
同様のことが、中国政府の人民元の国際化にも見受けられる。従来は、中国政府は、中国の国内居住者が人民元をドルなどの外貨に交換して、国内の資金を海外に流出させたり、さらには資本逃避させることを警戒して、厳しい外国為替管理政策を採用していた。その厳しい外国為替管理は、かつては国際貿易の決済などの経常勘定取引にも適用されていた。そのため、輸出入も自由にできる状態でなかったり、国有企業やある産業には優先的に外貨の利用が可能となっていたが、その他では制限がかかっていた。そのために、資源の効率的配分ができないとともに、賄賂の温床にもなっていたと言われていた。そのような状態を改めるために、1994年に中国政府は経常勘定取引に限って外国為替管理を緩和することとした。
その後、2005年7月21日に中国政府は人民元改革を発表した。その内容は、何度かプレジデント誌で筆者が取り扱ったことがあるが、人民元をドルに対して約2.1%切り上げたことと、ドルに対する固定相場制をやめて、前日比に対して0.3%の許容変動幅を設けたことである。さらに、ドルだけではなく、円やユーロなどに対しても人民元の安定を図るという、通貨バスケットを参照とした管理フロート制度に移行すると発表した。
その発表後、人民元の対ドル為替相場と対円為替相場がどのように推移したかは、図に示されている。05年7月21日に約2.1%以降、人民元はドルに対して徐々に切り上げられている。しかし、世界金融危機の中、08年5月から2年間ほど人民元は再びドルに対して固定された状態に戻った。世界金融危機がある程度おさまってきた10年8月以降、再び人民元は切り上げられている。人民元がドルに対して比較的安定した動きが見られるのに対して、人民元/円相場には日々のボラティリティとともに大きな振幅を持った変動が見られる。このような現実は、05年の通貨バスケットを参照とした管理フロート制度への移行という発表とは明らかに異なる状況にある。さらに、近年においては、ドル安人民元高のトレンドと対照的に円高人民元安のトレンドにあった。ただし、12年に入ると円がドルに対して減価するように、人民元に対しても減価して、行き過ぎた円高を多少戻している。一方、人民元は12年に入って切り上げ速度を減速し、さらには人民元切り上げが止まっている。
このように人民元はドルに対して比較的安定的に切り上がっているものの、その切り上げ速度は減速したり、加速したり、あるいは止まったりしている。このような管理フロート制度の下で、従来のドルペッグ制度(人民元をドルに固定する為替相場制度)に比較して、人民元/ドル相場の動きが出てきたこと、さらにその動きに不確実性(為替相場リスク)が伴うようになってきたことが特徴的である。このような為替相場リスクに直面することになると、輸出入業者にとってはその為替リスクを最小化することが企業経営にとって重要となってくる。そして、為替相場リスクをリスクヘッジするための手段が必要となってくる。
為替相場リスクをヘッジする手段としては、ナチュラル・ヘッジングといって、貸借対照表や損益計算書の資産あるいは負債、収益あるいは費用のどちらかに外貨建て項目が存在すれば、その反対側に同額の外貨建て項目を置くことによって、スクエアにする手段がある。
このような為替相場リスク・ヘッジングが可能となるためには、外貨建てでの資金運用や資金調達が自由に行える必要がある。ナチュラル・ヘッジング以外に、将来の為替相場を現時点で確定するという外貨建ての先物取引やオプション取引など金融派生商品を利用することもありうる。このように、為替相場リスクをヘッジするためには、外貨建ての資金運用や資金調達、あるいは外貨建ての金融派生商品の取引が可能となっていることが必要であり、外国為替管理や資本管理による規制を緩和していかなければならない。その意味で、人民元の為替相場制度の弾力化が進むにつれて、経常勘定取引のみならず、資本勘定取引においても人民元の交換性を高めていくことが必要である。