人材不足の怖さ

そもそも電力会社の上層部には原発に明るい人が少ない。火力発電で育った人ならまだいいほうで、電力の素人である地元の有力者や経済団体の幹部などがふんぞり返っている。私が質問すると秘書に「○○くんを呼んでくれ」と言うだけだ。呼ばれてきた担当者にも当事者意識がない。「この人たちに原子炉を任せたらやばいぞ」と思った。

原発事故が起きてからは、優秀な技術者の確保がなおさら難しくなってきている。原子力工学を勉強する若者が減っているからだ。

私が博士号を取得したマサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院も、1979年にスリーマイル島の原発事故が起きてからは、学生が集まらなくなった。私が院生の頃は同級生が130人以上いたのが、15人前後まで減った。しかも米国人はほぼゼロで、アフリカから国費留学してきた学生がほとんどになった。日本でも原子力工学科をめざす若者が減り、人材不足がさらに進むことは容易に予想できる。

人材不足の怖さは福島の事故でも明らかになった。福島第一に6基ある原子炉のうち、5号機と6号機は設計・製造した東芝の技術者を招聘して停止させた。東電には他社より優秀な技術者が多いといっても、同時に6基を止めるには足りなかったのだ。東電でさえそうなのだから、地方の電力会社で大事故が起これば、まずノックアウトだろう。

だから、優秀な人材を集めるために、原発の運営会社は1つにまとめる。もともと電力会社のなかで、原発部門は別系統だから実行は容易なはずだ。福島の事故で東電社内が混乱した原因の1つは、原発部門が経営陣に信頼されてなかったことがある。

技術者不足は、原子力関連のメーカー側にも起こる。だから、メーカーも1社にまとめるのだ。日本で原子炉を設計・施工できる企業は三菱重工、日立製作所、東芝の3社だ。原子炉にはBWR(沸騰水型炉)とPWR(加圧水型炉)の2種類がある。BWRは、原子炉のなかで水を沸騰させ、発生した蒸気をタービンへ送って発電する。PWRは、原子炉のなかで沸騰しないように圧力をかけた水を熱し、その熱水を蒸気発生器に送って別系統の水を熱して蒸気を発生させる。福島第一の原子炉はすべてBWRであり、東日本大震災の事故によってPWRのほうが冷温停止しやすいことがわかった。

今では事故があっても冷温停止まで持ち込めるAP1000のようなPWRもできている。中国で現在建設中の炉はほとんどがこのタイプだ。また出力が小さくて安全性が高いSMR(小型モジュール炉)などの新しい技術に集約していくことも考えられる。

古い原子炉は、もともと30年の使用で設計されたものがいろいろ工夫することで「40年でもOK」とされてきた。しかし、苦し紛れの延命認可はもうやめて、事故後に設計された最新型を導入したほうがいい。