貯蓄率の違いを生むたったひとつの要因
さて、サルの貯蓄の話が出たところでクイズです。
図表1は国の総貯蓄率を国際比較したものです。先ほどまでの話からすれば、貯蓄率が高い国ほど、時間割引率は低い国だと言えます。
この研究を行なったキース・チェン氏(サルの実験をした人)によると、AのグループとBのグループの総貯蓄率は、あるひとつの要因によって、4.7%ほどの違いが生まれていると推計されています。
もちろん、両グループで時間割引率が異なっていると考えられるわけですが、何がその違いを生んでいるのでしょう?
ヒントは、サルとヒトとの違いにあります。
答えは「言語」です。ではなぜ、日本とドイツが同じAグループなのかと思う人、2つの国の言語の共通点とはなんでしょう?
反対側のグループを見ていただくと、薄っすら透けて見えてきますかね。イギリス、アメリカと、英語圏はこちらのグループです。英語と日本語の違いと言えば、時制表現です。現在進行形だとか、過去完了形だとか。中でも、ここで問題になるのは「未来形」というものです。少し確認してみましょう。
英語圏の人は未来と現在を強く切り分けている
A 「今日は寒い」
B 「明日は寒い」
C 「It is cold today」
D 「It is cold tomorrow」
間違いは、Dで合っているはずです。あまり自信はないのですが、正しくは「It will be cold tomorrow」としないといけません。
チェン氏が指摘するのは、このとき、脳の中では未来のことを現在と強く切り分けるため、時間割引率が高くなるという可能性です。つまり、未来の自分は未来の自分、今の自分は今の自分というように、ついつい考えてしまうということです。
色を表す言葉の多い言語を話す国の人ほど実際に色を見分けられるように、時制表現が強い英語などの国では、将来のことはあくまでも将来のこととして認識できてしまう、というのです。
反対に、日本語などの時制表現が弱い国では、今日のことも明日のことも一緒くたに扱うため、将来の自分を今の自分に重ねやすく、結果、時間割引率が低くなる、と言います。