排除された人は社会に牙をむく

無敵の人には、安定した職に就いていない就職氷河期世代(1970~1984年生まれ)ぐらいの人が多いんです。

バブル崩壊後の就職難で正社員になれずに、非正規雇用で20年働いていて、恋人も家族もいなくて、なかには「オレ、なんのために生きているんだろ」となっている人もいると思うんです。

それより上の60代以上の世代は、年金を払えていたからそれなりに人生をまっとうできるんですが、40代ぐらいの世代は世間からは「お前ら働けるじゃん」と言われます。それなのに、企業は20代や30代を雇って40代は雇わない。

でも、彼らが不遇なのは、たまたま大学を卒業する頃が就職氷河期だったからです。おまけに、その頃に派遣社員というシステムができたせいで、真面目に働いてきたのに利益やスキルを得られなかった。努力ができて結果を出せても報われていない人もいる、運が悪かった世代なんです。

なので、彼らが社会に対して「知ったこっちゃねえよ」となるのは、自己責任の言葉だけでは片づけられない部分もあります。社会は彼らに対して優しくしていないのだから、彼らが社会に対して優しくすべきだというのは説得力を持たないですよね。

社会から人を排除すると、排除された人は社会に牙をむくよねということは、さすがに皆さんも理解されるような状況になってきたのではないでしょうか。

「ホームレスは野垂れ死ねばいい」というメッセージ

2020年に40代の引きこもりの男性が、渋谷区のバス停でホームレスの女性を殴り殺したという事件がありましたが、いまの日本では「ホームレスはいないほうが社会にとっていいよね」という考えが多数派になっている気がします。

実際、公園や駅にいるホームレスが、警備員や駅員、警察官に追い出されているのを見ても、多くの人はおかしなことが起こっていると思わず、止めたりもしないですよね。

でも、追い出されたホームレスは別の公園や駅に行くだけで、排除しても何も変わりません。それをまったく問題ないと思っている人は、単に自分の目の前からいなくなってくれて、「どこかで野垂れ死ねばいいよね」と思っているのと同然です。おそらく、それが日本人の多数派になってしまっているので、そうなってしまうと社会に対して希望が持てなくなってしまっても仕方ないですよね。

これって弱者に対して、「あわよくば自分の見えないところに行って、勝手に野垂れ死んでくれたほうがいいよね」というメッセージになっていると思うんです。そういうメッセージを社会が出し続けていると、自分は排除されたと思う人たちが「社会の秩序を守らなければいけない」と思わないのは当然ですよね。

なので、人を排除するという考え方自体を変えていったほうがいいと、今回の事件であらためて思いました。

これは簡単に解決する問題ではないのですが、皆さんがホームレスや社会的弱者を「見なくてもいいよね」「あの人たち、いなくなったほうがいいよね」とうっすらと思っていることが、実際に結果になってしまうことが今後もあるかもしれません。

僕はこの問題の正解は、不幸な人を減らすことだと思うのですが、今の日本は不幸な人を見なかったことにして無視している気がします。

でも、無敵の人の事件を防ごうとするなら、社会から疎外されている人や社会を敵対視している人をできるだけ減らしていくほうが重要でしょう。