年収の減少率はたった0.92%

それでも、11.5%という数字が大きいせいか、「民間が増えているのに公務員が大幅減というのはひどい」「だから霞が関の官僚が辞めてしまう」といった論調が目に付く。人事院が勧告する際に比較対象にする「民間」は大企業で、ボーナスが下がったからといって「安月給」になったわけではない。昨年の人事院勧告の結果でも、行政職の平均年収で見れば、664万2000円で、6万2000円減少する内容だったにすぎない。減少率は0.92%だ。

決して、公務員の給与が抜本的に引き下げられているわけではなく、庶民感覚からすれば、厚遇であることには何ら変わりはない。

しかも公務員の場合、民間企業に勤めるビジネスマンと違い、会社が潰れて失業するリスクはない。業務成績が悪いからといって格下げされたり、給与が下がったりすることもまずない。本来ならば、その分、民間よりも給与水準が低くて良いはずだが、そうなっていないのだ。

しかし、夏のボーナスのこのタイミングで、「公務員給与は民間よりも下げられている」と声高に語られることには危うさが潜む。今年も8月に出る人事院勧告である。民間のボーナスは大きく増えているといっても、減った分が元に戻っているというのが実情に近いが、公務員の間からは、さっそく、給与やボーナスを引き上げるべきだ、という声が出始めている。8月に人事院が給与やボーナスの増額を勧告したとしても、国民の間から批判が巻き起こる懸念は少ないとみられ、賃上げのムードづくりはできているというわけだ。

1万円札の数を数える人の手元
写真=iStock.com/shirosuna-m
※写真はイメージです

公務員給与アップが賃上げの「呼び水」になるかは疑問

政府周辺から繰り返し出てくる発言で、もうひとつ気になることがある。岸田文雄首相は就任以来、「分配」を掲げ、企業に「賃上げ」を求めているが、その「呼び水になる」としてエッセンシャルワーカーの給与引き上げに動いている。給与が安いことからなかなか人材が確保できないとも言われる介護職員や保育士、看護師などの待遇を見直すこと自体は良いことだが、それが民間企業の給与を増やす「呼び水」になるかというと異論も多い。

政府が公定価格を引き上げてこうしたエッセンシャルワーカーの給与を増やしたからといって経済成長につながるかどうかは不透明で、本当に民間の給与の増加につながるのかは疑問だ。逆に政府支出が増えれば、いずれは増税や社会保険料の増額で国民負担が増え、可処分所得が減って消費にマイナスとなり、経済成長を阻害する、という見方もある。

しかし、この「呼び水」論が、公務員給与のあり方でも大きな意味を持ってくる。岸田首相は「3%の賃上げ」を民間に求めているのだから、まずは公務員給与を3%引き上げて「呼び水」とすべきだ、という議論が出てきかねない。

もともと、昨年段階で給与法を改正せず、ボーナス削減を先送りしたのも、「景気への配慮」があった。つまり、公務員給与を減らすと、景気にマイナスの影響が出る、というのだ。逆に言えば、公務員給与を増やすことが景気にプラスに働くという理屈である。