物理的な家ではなく、自分の居場所を求める気持ちがだれにでもあります。それがないと「何かやらなきゃ!」と外へ出て行ったり、「家に帰る!」と言うことになります。探し求めて外に出たものの、途中で目的がわからなくなって迷ってしまうこともあります。安全基地にだれかがなることが必要なのです。

顔や名前を覚えられなくても「親しみ」を感じることはできる

対策としては、体を動かせる場所や人と会える場所を作ることです。最初にデイサービスなどの施設に行くことを決めるのは、どうしても「老いてから行く場所」といったイメージがあり、勇気がいるのかもしれません。しかし本当は、施設は「習い事」ができる場所なのかもしません。

新しく絵を描き始めてみる、歌を歌ってみる、手芸をやってみる、囲碁をやってみる、そんな挑戦がある場所です。あるいは、施設は「ジム」のような場所で、体を動かせる器械もあり、見守ってもらいながら、筋肉が衰えないようにトレーニングできます。そして何より、新しい友達ができる場所です。その仲間内で、新しい役割が生まれることもあります。

囲碁をする老人
写真=iStock.com/xavierarnau
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アルツハイマー型認知症は、新しい出来事を記憶することに問題が出る病気と述べてきました。だから、新しい場所に行くのは難しいのではないか、と思うかもしれません。しかし、驚くべきことに、何度も施設に通うと、その場所に慣れてきます。そしてそこにいる人たちにも慣れてきて、友達ができるのです。

施設や人の名前は覚えられないかもしれない。名前は、海馬の司る宣言的記憶だからです。また施設へ行っても「今日、あそこで○○をしてきたよ」と帰ってから出来事を語ることは難しいかもしれない。しかし、繰り返しそこへ行き、顔を合わせていると、体はその場所や人を覚えて「親しみ」を感じるようになります。それは、大脳基底核や小脳の司る体の記憶が無事だからです。

居場所ができれば「帰りたい」という気持ちは癒やされていく

アルツハイマー型認知症の人も、新しく会う人には警戒をして体を触らせたりしませんが、大脳基底核や小脳の働きのおかげで、繰り返し会っていると徐々に慣れてきて、他人に手伝ってもらうことを受け入れられるようになります。そして、他の利用者が困っていたら、今度は自分が手伝ってあげようという気持ちが芽生えます。

このように、施設で自分よりそのとき体の状態が悪い人の面倒をみることができたり、なんらかの役割を得れば、その中で居場所ができていくでしょう。自分には居場所があるとわかれば、「ここではないどこかへ行きたい」「帰りたい」という気持ちも癒やされていくはずです。