キャリア女性の家には地雷がある
これまでに1万件を超える相談を受け、全国から集まる受講者は1500人以上に及ぶ。フルタイムで働く女性たちは半数を占めるという。「片付けられない」と相談に来る人たちはどんな悩みを抱えているのか。
「うちの受講生はハイキャリアの人も多いんです。彼女たちはやはり良いお母さんでもありたいし、自分の人生も大事にしたいと思っています。けれど昔の日本的な価値観にしばられて、全部自分がやらなきゃいけない、夫に頼るのも悪いなどと思いがち。すごく真面目な方たちなのです。私はいつも『家事はアウトソーシングしていいんだよ』と勧めますが、家が片付いていないと他人には見せられないからアウトソーシングもできないと。結局、その前に立ちはだかるのは自分のプライドだったりするわけです。
あとは片付けない家族にイライラしてしまう。そもそも自分もやっていないのに、『片付けなさい!』と子どもに怒鳴っている自分が嫌という人もいます。いわば家の中に地雷があるというか(笑)。だから私は『片付けは地雷除去作業ね』と言うんです」
廊下やベランダがクローゼットに…
実際に家の中を見ると、アイランドキッチンに食器が山積みになっていたり、ひと間が「物置部屋」と化していたり。ベランダに干した服を取り込まず、その中から選んで着るので、ベランダが「クローゼット」という女性や、廊下がクローゼットになっている女性もいるという。
受講生の中には「もう離婚したい」とまで思い詰めて、参加した人もいた。大手メーカーでマネージャーを務め、中学生と高校生の子どもをもつ40代後半の女性だった。
「彼女の根底には、とりあえずこの家から逃げたいという気持ちがあったようです。でも、家を片付けることは現実と向き合う作業でしかないので、一つずつのモノに対して本当に必要かどうかを考えますし、家族の意見や希望も聞かなければなりません。そして相手がやってくれたことには『100倍の〈ありがとう〉を言ってください』と勧めています。照れくさくても、子どもや夫に感謝の気持ちを伝えたら相手はうれしいし、もっとやってあげようという気持ちになるでしょう」
片付けの基本は「コミュニケーション能力」でもあると、西崎さんは考える。この女性は家を片付けるなかで夫婦の会話が増え、夫の本音を聞くこともできた。妻の仕事を応援したいと、家事も進んでやってくれるようになった。彼女も安心感が増して、今では夫婦むつまじいツーショット写真が送られてくる。