「08年秋のリーマン・ショック以降に変わったのは、発泡酒がよく出るようになったことと、求人で従来の倍の応募者が来るようになったことくらい」

むろん、「安かろう、悪かろう」は通用しない。焼き鳥に使う鶏肉の劣化は串を通すことから始まるが、同社はこれを産地や工場ではなく各店舗で行う。分量も1串60グラムと他店の約2倍、「貴族焼き」は3倍の90グラムだ。

それだけ質・量ともに充実させながら、なぜこの価格設定が可能なのか。

「商品を“絞る”利点に早い時期に気付いたのがよかった。創業5年目に品数を90まで増やしたら、逆に焼き鳥というウリがボヤけてしまった」

今は約60。半分が焼き鳥だ。品数を減らすと客が減るのでは?

「今はスーパー・百貨店より専門店が好調な小売り同様、商品を絞ったほうがお客様の支持に応えられます」。実際、客からは刺し身や牛肉が欲しいという要望もあるが、意に介さない。

「聞いていい声と悪い声がある」と大倉社長は言う。絞ることで焼き鳥がよく出るようになり、鶏肉の販売量が増え、仕入れ業者との交渉もしやすくなる。メニューが少ないから回転率が上がり、ロスも減っていいものを出せる。

加えて、調理は基本的に焼くだけだから厨房はコンパクト。社員教育のコストも安くすむ……とすべて順調にかみ合っていくのだ。

現在の鶏肉の仕入れ値は創業時の約6割。全店舗の取扱量が、「今年度にイオンが扱う鶏肉の総量を抜く」(大倉社長)というスケールメリットが貢献した。仕入れ値を下げるたびに、発泡酒の大ジョッキなどのサプライズ商品が可能となったという。

「今は他チェーンだけでなく、居酒屋の客が流れた『王将』や、コンビニで買う中食や発泡酒も競争相手です」(同)

特化した商品のブラッシュアップで流れに乗る同社は、まだまだ伸びしろがありそうだ。

※すべて雑誌掲載当時

(佐粧俊之=撮影)