ところが、自由党のスコット・モリソン前首相は、ケビン・ラッド氏とは正反対に中国にかなりきつく当たった。労働党のアルバニージ新首相の国際観、外交のビジョンは未知数であるが、対欧米、対日、対中国などのバランスをどう取るのか、今後に注目する必要がある。

フィリピンも親日から親中へ

一方、フィリピンでは、5月9日の大統領選で勝利したフェルディナンド・マルコス氏が、6月30日に新大統領に就任する。通称ボンボン・マルコス氏だ。

父親のフェルディナンド・マルコス氏は、21年も大統領を続け「独裁者」と呼ばれた。86年のエドゥサ革命で打倒されハワイへ逃げた。同じ名前の長男が大統領に選ばれるのは、私から見ると常軌を逸しているとしか思えない。

フィリピンは、情で投票する人が多いのだろう。エドゥサ革命で大統領になったコラソン・アキノ氏は、マルコス氏と対立して暗殺されたベニグノ・アキノ氏の奥さんだった。夫の恨みを晴らすのだからと、政治能力は考えずに大統領に選ばれたわけだ。

16年から大統領を務めるロドリゴ・ドゥテルテ氏も、なぜ選ばれたのかわからない。彼はダバオ市で計22年にわたって市長を務め、麻薬犯罪者などを問答無用で射殺した話はよく知られている。大統領選で「凶悪犯や麻薬密売人は殺す」と公言して当選した。実際、強権的な麻薬取締を進めて人権を無視した“麻薬戦争”を展開したが、任期中の支持率はそれなりに維持された。

彼が大統領の任期を終えたあとは、長女のサラ・ドゥテルテ氏を大統領にして、自分は副大統領になると話したこともあった。だが、そのうちにボンボン・マルコス氏が大統領候補として有力視されだした。ドゥテルテ氏とボンボン・マルコス氏は家族ぐるみの付き合いだから、それなら娘は副大統領でいいと考えたのだろう。フィリピンでは大統領と副大統領はそれぞれ投票で選ばれる。今回の選挙ではボンボン・マルコス氏とサラ氏が手を組み、2人とも当選した。

私が知る限り、再独立後のフィリピンの大統領で最もまともだったのは、フィデル・ラモス氏だ(任期は92〜98年)。国軍出身で、コラソン・アキノ大統領の時代に軍参謀総長、国防大臣を務め、彼女を腹心の部下のように支えて後継指名を受けた。

私はラモス政権時に、大統領官邸のマラカニアン宮殿に招かれたことがある。私がマレーシアのマハティール首相のアドバイザーだと知って、フィリピンでも21世紀を見据えたIT戦略などをアドバイスしてほしいと頼まれた。