ハンバーガーの味が落ちてSNSには「悲しい。それだけ」 ロシア版マクドナルド「美味しい。それだけ」現地実食レポート(「週刊文春」編集部/週刊文春) ビッグマックは「ボリショイバーガー」、コーラは「コカ・コーラ」のまま

「やはり、ハンバーガーチェーンの経営はアメリカ人に任せなければいけないようですね」

こう語るのは、大のマクドナルドファンだというロシア・モスクワ在住のイーゴリ・カルポフ氏。彼はこの日、オープンしたばかりの“ロシア版マック”に出かけたのだが……。

6月12日、ロシアの“ハンバーガーファン”が歓喜の渦に包まれた。ハンバーガーチェーン店「Вкусно – и точка(フクースナ・イ・トーチカ)」がモスクワ市内の15店舗でオープンしたのである。店名は日本語に直訳すると「美味しい。それだけ」。この日、プーシキン広場近くの店舗には大勢の市民が殺到していた。

ロシア人が熱狂するハンバーガーチェーン。その実態はどうなっているのか? 今回、小誌はオープンと同時に店舗を訪れたロシア人に話を聞くことができた。

12日にオープンしたプーシキン広場近くの店舗

ロシア人はマックが大好き 

ロシア人にとってこの数カ月、ハンバーガーは“お預け”状態だった。

今年3月、ロシアのウクライナ侵攻を受け、外資の企業が続々とロシア国内からの撤退を表明。米のハンバーガーチェーン「マクドナルド」も3月に全店舗の一時閉鎖を決定し、2カ月後の5月16日にはロシアからの恒久的撤退に踏み切った。

冒頭のカルポフ氏がマクドナルドについて熱く語る。

「美味しい、提供が早い、清潔という3つの点で国内の料理店とは大きく違いました。ビッグマック、ロイヤルチーズバーガー、フィレオフィッシュ、マックシェイクバニラ……どれも格別な味で大好物だったんです」

ロシア人はマクドナルドが大好きだ。1990年1月にマクドナルドのモスクワ第1号店がオープンした際には初日におよそ3万人が訪れ6時間待ちの大盛況。2号店のオープニングセレモニーにはボリス・エリツィン大統領(当時)が登場し、「M」のロゴが入った旗を振ってみせた。それ以来、長きにわたりロシア人を虜にしてきたマクドナルド。それゆえ、今回の撤退はロシアの“ハンバーガーファン”にとって衝撃的な事態だった。未来永劫、マクドナルドを食べることは叶わないのか——多くのロシア人が悲しみに暮れた。

ところが、思わぬ形で“マクドナルドの味”が帰ってきたのである。キー局のモスクワ支局員が解説する。

「約10年前からマクドナルド社とフランチャイズ契約を結んでいたノヴォクズネツク市の実業家・アレクサンドル・ゴバー氏が、新たなハンバーガーチェーンを再オープンさせると宣言。今回の新ブランドオープンに至りました。ゴバー氏は『2カ月で(旧マクドナルド)全店での営業を再開するというチャレンジングで野心的な計画がある』と発言。まずはモスクワ市内にある15店舗から営業をスタートさせたのです」

印象的なのは「美味しい。それだけ」という店の名前。今回のオープンを心待ちにしており、初日に食べに行ったというモスクワ市内で地方公務員として勤務するドミトリー・ジューコフ氏(41)が内情を打ち明ける。

「開店10日前の段階でまだ新ブランドの名称が決まっていなかったようです。『Весело и вкусно(楽しくておいしい)』、『Компас(コンパス)』、『Наше место(私たちの店)』など何個かの候補があり、開店前日に『Вкусно – и точка』に決まりました。ロゴを構成する2本の黄色い棒はフライドポテトで、オレンジの丸はハンバーガー。背景の緑色は、良質なサービスの提供を象徴しています。現在、時給188ルーブル(約450円)で働き手を募集しているようです」

プーシキン広場近くの店舗の外壁には「店の名称は変わったが、愛情はそのまま」という文言が大きくペイントされていた。

「店の周りを取り囲むほど客が集まっていたので混雑しないよう20名ごとに案内しており、私は3番目の組で入れました。若者や家族連れが多く、久しぶりの“マクドナルド”を楽しんでいるようでした。メニューや店内の機械、食材の流通経路はマクドナルドだった時から引き継いでいるため大きな変更点はありません。唯一の変化は、従業員の制服です。マクドナルドのロゴが入った服は着用できないため、『Вкусно – и точка』のロゴバッチを着けて対応していました」(前出・ジューコフ氏)