佳作だったSFドラマ2作

余談だが、科学技術の進歩を空想で描くSFには、ある程度のリアリティと説得力が必要だ。

今期はわりと説得力のあるSFドラマが存在したことを書いておかねば。

「ヒヤマケンタロウの妊娠」(Netflix)は、男性が妊娠する物語だった。「え、男性の体のいったいどこで?」という細かい説明は一切ないものの、主演の斎藤工が男性妊婦として、妊娠・出産の苦悩を体現。脚光を浴びる一方で白眼視される男性妊夫を描き、主題は「性的役割の打破」だったが、プチSFといってもいいだろう。

また、「パンドラの果実」(日テレ)では、亡くなった妻を-196℃で冷凍保存し、蘇生技術の進歩を待つ主人公(ディーン・フジオカ)が描かれている。刑事モノだが、空想科学に舵を切ったエピソードが興味深い。脳の中身をデータとして転送する技術や、人体の中に入って傷んだ細胞のみを修復できるナノマシンなど、あったらいいな・すごいな・儲かるなレベルのSFが山盛りなのだ。

政治に不満な人ほどハマる内容

で、話を「17才の帝国」に戻す。政治AI・ソロンには正直、胸ときめいちゃう自分がいた。ソロンは丘の上に建てられた3本の巨大な塔に内蔵されている。この映像が実にカッコイイし、ちょっとワクワクさせる。

ソロンは「トリ・ヘキサ・ノナ」と呼ばれる3つのスーパーコンピューターで構成されていて、それぞれが「経済成長・生活文化・持続可能性」という異なる視点をもっている。膨大なデータをもとに、人々の幸福度を測りながら理想の町づくりへの具体的な提案が可能なのだ。

ウーアの住民はメガネタイプのウェアラブル端末をもち、若き閣僚たちの閣議や動向を見ることもできるし、自分の疑問や意見を随時ソロンに送信できる。すべての声をソロンが吸収し、数字やデータで見せる。当然、支持率も逐一表示。

すごくない? ちょっと欲しくない?

人の話を聞いちゃいない政治家ばかりで、議事録の改ざんや黒塗りは当たり前だし、一部の官公庁が私利私欲にまみれて不正もやりたい放題の国に生きていると、公平公正な政治AIの能力にうっとりしてしまうのよ。たとえSFでも、今の政治や行政に疑問や不満を抱えている人は、「ソロン無双!」「ソロン欲しい!」と思っちゃうわけよ。

制作陣には喝采を送りたい

ソロンほどの完全無欠な政治AIは難しいかもしれないが、実は実現可能ではないかと思う。ただ、膨大なデータをどこまでとるかが問題だ。政治の世界では闇に葬られる話が多く、戦後の負の遺産そのものである権力者にとって、すべてをつまびらかにしてしまうAIはすこぶる都合が悪い。なんなら入力データそのものを改ざんしかねない。技術的には実現可能でも、到底実現しない可能性が高い……。

AIと時の政権にやたらと肩入れしている印象が強いNHKだが、このドラマを作った制作陣の気骨には、指笛吹いて(吹けないけれど)ブラボーと叫びたい。

NHK
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