「認知症予防」という言葉にどんなイメージをもつだろうか。社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんは「私はこの言葉が大嫌い。好きで認知症になるひとはいない。それなのに『予防しなかったあなたが悪い』などと自助努力を求められる。わたしたちは誰でも安心して認知症になれる社会を目指すべきだ」という――。
※本稿は、上野千鶴子『最後の講義 完全版 これからの時代を生きるあなたへ』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
エイジングとは、誰もが中途障害者になる過程
これからの日本は、人口減少社会です。誰もが無力で依存的な存在として生まれ、やがて再び無力で依存的な存在として死へと向かいます。
わたしは、エイジングとは、誰もが中途障害者になる過程だと思っています。その中途障害のなかには、カラダの不自由だけじゃなくて、アタマの不自由、ココロの不自由、こういう障害の全部または一部の集合があります。誰もが弱者になって、みんな一緒に下り坂を支え合って下りていかなきゃいけない社会に、わたしたちは生きています。
女のやってきたケアとは、どういう実践だったのでしょうか?
ケアとは、ケアするひととケアされるひととのあいだが圧倒的に非対称な関係のもとに行われる相互行為です。ケアする側とケアされる側が入れ替わることは、ほぼ期待できません。この圧倒的に非対称な関係のもとで、権力の濫用を抑制し続けてきたプロセスがケアです。
権力の濫用を、英語でabuseといいます。「ab(アブ)-use(ユーズ)」とは、権力のアブノーマルな使用のことですね。
ハラスメントの定義は、権力の濫用です。権力の伴わない組織はありません。権力というのは、ポストに与えられた業務遂行のための権能(※1)のことです。その権力を、当の職務遂行以外の場面で濫用したときに、ハラスメントになります。たとえば、性的な場面で濫用すればセクハラになりますし、部下に「弁当買ってこい」とパシリをさせたら、パワハラになります。おもしろいのは、abuseの日本語訳に、もうひとつ、虐待というのがあることです。
※1 権能:ある事柄について権利を主張し、行使できる能力。職権、権限。