物理学的に見直して理論を組み立て直す

従って、金利を上げても、2つの問題は解決しないどころか逆効果だ。賃金で言えば、富裕層は貯金が増えて喜ぶかもしれないが、借金がある貧困層は金利上昇で返済額が増える。すると、ますます高い賃金で働ける場所を求めるから、企業側も人材確保のために給料を上げることになる。そして、益々物価は上昇し企業収益は減少するのだ。

また、利上げでインフレを抑え、利下げで景気をよくするという方程式は、「高欲望」時代に通用したものでしかない。かつて景気がよいときは、余ったお金を貯金するくらいならモノを買おうという時代だったから、利上げをして貯蓄を促すことは有効だった。しかし、今は消費者心理とはまったく異なるウクライナ情勢や新型コロナの影響で供給不足になっているのだから、前提が違うのだ。

科学者、技術者のように本当の原因は何か、現象をよく観察して考えないから、対策がマトはずれになるのだ。19世紀、20世紀の古い経済学を勉強したパウエル議長(そして黒田東彦はるひこ・日本銀行総裁も)、自分が学んだ経済原論は21世紀には通じないことに早く気づいてほしい。

最後の例は、イーロン・マスクだ。彼は5月に「出生率が死亡率より高くなる変化をもたらさないと日本は消滅するだろう。世界にとって大きな損失だ」と英語でツイートして話題になった。しかし、彼らしくもないアホな発言だった。

日本の人口問題は、もう何十年も前から言われていたことで目新しさはない。いつもゼロから考えて電気自動車や宇宙ロケットを開発してきたのに、今回は違った。彼はツイートをする前に、図書館に行って合計特殊出生率が回復した先行事例を調べるべきだったのだ。対策はいくらでもある、ということがわかるはずだ。

私は政治家や経済学者でもなければ、少子化対策の専門家でもない。元はただの物理屋だ。だが、21世紀の新しい世界では、すべてを物理学的に1度見直して理論を組み立て直す必要がある。だから、胸を張って若い人に構想力の原点を教えたい。オグルビー先生の教えを日本でも多くの人に学んでもらい、新しい発想と構想を生み出してほしい。

(構成=伊田欣司 写真=dpa/時事通信フォト)
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