岸田首相には「インド並みにユニコン企業をつくる」でもいいから、はじめに目的やビジョンを決めてもらいたい。オグルビー先生の「顕微鏡で原子を見る」に当たるものだ。

私がBBTで教えている「構想力」のコースでは、例えば「首都圏で働く人の通勤時間を片道平均20分にするにはどうするか」といったテーマを設定し、自分たちで考えていく。現在の平均通勤時間は片道およそ45分だから、半分以下に減らすための方法だ。

東京の通勤時間が長いのは、都心のオフィス街の近くに住宅供給が少ないことが原因の1つだ。つまり、都心部に住宅を増やせばいいことになる。

そこで、例えば「JRの駅や線路の上に高層住宅を建てる」というアイデアだ。山手線、中央線など、駅と線路の上空が余っているから有効活用するのだ。駅の上に住めば、最寄り駅までの移動時間も減らせる。そもそも東京は、海外の大都市に比べて高い建物が少ない。23区の平均階数は2.6階しかないのだ。

このアイデアを実現するには、規制緩和が必要だ。建物の高さを制限する容積率や日照権、空中権の規制などは見直す。日照権があるのは日本くらいで、即刻廃止していい。東京では、社会党(当時)や共産党が元気だった頃の美濃部亮吉都知事が、人気取りのために導入した「悪法」でしかない。

半世紀経った今では、都心部のオフィスに1時間以上かけて近隣3県から通勤・通学する人がそれぞれ100万人単位でいる。その人たちが片道20分で通えるなら、不動産の規制は“超緩和”したほうがメリットは大きい。

すべてを物理学的に見直してから構想せよ

自分の頭で考えないのは、実は日本人だけではない。2期目に入ったFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長も考えていない1人だ。

彼は高インフレを抑えるために大幅な利上げを続ける方針だ。しかし、急激な利上げは、日本のバブル崩壊のような景気後退を招くおそれがある。すでに世界の株式相場が急落しているとおり、このまま利上げを続ければ、歴史的な大恐慌になりかねない。

パウエル議長のインフレ対策は、根本的に間違っている。金利を上げてインフレを抑える発想は、ケインズなどが考えた20世紀初めの経済理論を当てはめている。経済学の教科書に書いてある内容だ。

しかし、現在のインフレは2つの原因から起きている。1つは、米国で賃金(特にwage)が上がったことだ。格差社会の下層に置かれる日雇い、週雇いの労働者を中心に上昇し、時給は場所にもよるが35〜40ドルになった。稼ぐ人は月給80万円、年収1000万円ほどになる。

もう1つの原因は、ウクライナ情勢や新型コロナなどの影響で、原油、小麦、ひまわり油、半導体などの供給量が減ったことだ。つまり、今の物価上昇の原因は、賃金アップとモノ不足だ。