今の東芝にとって大事なのは再建策ではない
折しも東芝は再建策をめぐって二転三転している。前執行部が昨年11月に会社を3分割すると発表すると株主であるアクティビストが反発。これを丸め込もうと2分割案に修正したが、3月に開かれた臨時株主総会で否決された。残された道は長期的な視点で投資するファンドに株式を買い取ってもらって非上場化し、経営基盤を安定させることしかないというのが大方の見立て。
しかしその行方を左右する取締役会メンバーの多くをアクティビストが占め、他の株主は接することができない非公開情報にありつくことは、株主平等の原則に基づけば他の投資家は看過できまい。もとよりそれで東芝の未来はあるのか甚だ怪しい。
批判をしても仕方のないことだが、多くのメディアは東芝が取締役選任議案を発表した時にはその内容を淡々と伝えた。その後、東芝が公募した再建策に10の提案があったと6月2日に発表した際には、当事者が提案者は誰なのかは明かさないと言っているのに、「手を挙げたのは米ベインキャピタルではないか」「産業革新投資機構も前向きらしい」などと大々的に報じた。
今の東芝にとって大事なのは買い手が誰なのかではない。なにしろ提案は10もあり、絞り込むのはこれからなのだから。喫緊の問題は、それを決めるメンバーに著しい偏りがあって良いのか、それを認めたらコーポレートガバナンス(企業統治)がさらに歪むのではないかということだ。
コーポレートガバナンスを蔑ろにした企業の末路
筆者はこのほど『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(6月9日発売、文藝春秋)を上梓した。2018年10月、LIXIL(当時はLIXILグループ)の社長兼CEOが事実上のオーナーに突然クビを言い渡されたものの、翌年に開かれた株主総会で勝利を収めて社長兼CEOに復帰、逆にLIXILを思いのままに動かしていた事実上のオーナーが会社から離れることになった顚末を詳細に描いたノンフィクションである。
簡単に言ってしまえば、事実上のオーナーから売られた喧嘩を買った社長兼CEOが敗北必至の戦でどのように逆転勝利を収めたかを書いているのだが、底流にあるテーマは「健全なコーポレートガバナンスが保たれている」などと表向き標榜している日本企業の内実がかなり疑わしいものであること、コーポレートガバナンスを蔑ろにすると企業はいとも簡単に危うい状態に追い込まれるということである。
だからこそ「誰が買うのか」といった東芝の行方よりも、同社の足元で起きていることに大いなる危惧を抱く。自ら「最善策だ」などといった分割案をアクティビストに否定されたため、その職を辞任することになった東芝の前社長兼CEOが、今度はアクティビスト取締役選任案に「他の取締役候補と等しく、提案・推奨している」などと宗旨変えしていることをことさら嘆かわしいと思っている。