カッとなって電話機を叩きつけて壊したことも

とはいえ、中間管理職も相当振り回されていたらしい。たとえば、ある警備員は夜勤開始の30分前に電話をかけてきて、こう言ったという。

「今、パチンコで15万円勝ったから、しばらく仕事休ませろ」

それを聞いた加藤は、電話越しに激高した。

「ふざけんな! じゃあ今から誰あてがえば良いんだよ」
「いやあ、俺は行かないよ。だって15万勝ったから働く必要ないじゃん」

こうなると加藤は、自分が代わりに現場へ行って穴埋めしなくてはならない。仕方がないので、翌日以降の仕事もすべて配置から外した。すると、次の日また電話がかかってきた。「すみません。今日、一気に20万円負けちゃったんで、悪いけどまた明日から仕事、入れてくれませんか」

そうしたことが頻繁に起こるので、加藤はカッとなって物を投げたり、電話機を叩きつけて壊したこともあったという。

感情的になって携帯電話の画面を見ている人物のシルエット
写真=iStock.com/kieferpix
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「だから、干してやりたくなる気持ちもわからなくもないし、ガシャーンって電話を叩きつけてブチギレたくなる気持ちもわからなくもないけど、そこはやっぱり理性が働いて、壊すまではいかないじゃないですか。でも、それをやっちゃうんですよ」

社内には加藤よりキレやすい人間がいた

一方で、そんな自分に不甲斐なさを感じ、倉庫で一人シクシク泣いている加藤の姿も大友氏は見ている。キレる一方ではなく、内省もしていたのだ。

「俺が叱ったことに関しては反発するでもなく、自分なりに噛み砕いて配置を改める。ポジティブに、自分を改善していきたいという思いがある人なんです。もしも最初に入った会社がそこじゃなくて、ちゃんとやる気を認めてくれる会社だったら、それなりの地位についていたんじゃないかなという思いは結構あるんです」

大友氏からすれば、ほかの社員と比べて加藤にはまだ見込みがあったのだろう。むしろ社内には、もっとキレやすい人間もいて、当時はそちらのほうを警戒していたという。いったいどんな会社なんだと思ってしまうが、驚くのは早かった。なんとこの会社には、加藤の前にも無差別殺傷事件を引き起こした人間がいたというのだ。