ドル箱の関東圏では今、ラッシュの緩和と利用客の利便性向上を目指した一大プロジェクトが進んでいる。東京駅を起点とする東海道線と、現在上野駅止まりになっている東北・高崎・常磐線を結ぶ複線の「東北縦貫線」の建設だ。わずか3.8キロにかかる約400億円もの総事業費はJR東日本だけで賄われ、東北新幹線の高架の上にさらに高架を建設するという空前の難工事が、数年後の完成を目指して深夜の時間帯に続いている。この区間には南から神田、秋葉原、御徒町の3つの駅があるが、上野駅と南隣の御徒町駅の間の混雑率は京浜東北線(南行き)、山手線(外回り)ともに200%を超えており、今もJR東日本の管内でワースト1を争う激しさ。さらに東海道線の乗客は東京、東北・高崎・常磐線の利用客は上野で乗り換えなければならず、上野駅で乗り換える乗客からは東京駅に直通する路線の建設が長年待たれていた。東北縦貫線が開通すれば、東海道線と東北・高崎線を利用して56分かかっている品川~大宮間が45分に、東海道線と山手・京浜東北線を利用して44分かかっている横浜~上野間が35分に短縮される。

坂井 究●経営企画部担当部長

これだけの巨費を投じて建設される東北縦貫線だが、完成後に見込まれる収入は年間10億円に過ぎないという。だが、この一大事業はJR東日本にとって大きなメリットが存在する。品川駅と田町駅の間に広がる田町車両センター。港区という都心の一等地に残された、数少ない広大な土地だ。東北縦貫線が開通すれば、昼の間ここに留置されている東海道線の通勤電車を、上野駅の北にある尾久車両センターなどに移すことが可能になる。そうなれば、田町センターの規模縮小で生まれる10万~15万平方メートルの土地に、オフィスビルの建設など有効活用が見込めるのだ。東京都は「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン」を策定し、周辺の街づくりを推進しており、山手線の新駅建設もささやかれている。

「一番の意義はやっぱり混雑の緩和。さらには上野から北に住む人たちの『東京駅に直通する電車がほしい』という悲願の実現。そして用地も売り出せる。そういうことからすると、やっぱりこれが一番いいのかな、と。厳密な意味での投資効果の計算よりも『まずはつなごう』ということですよ」(清野智社長)

今後のカギを握る分野の一つが、地方路線の活性化だ。経営企画部担当部長の坂井究は「地方路線は沿線のお客様の人口そのものがどんどん減っています。さらに全国規模で人口減少が続くなかで、首都圏のお客さまに東北地方へどんどん来ていただくにはどうすればいいか。例えば青森県から秋田県の日本海沿岸を走る五能線には、座席が海側を向いていて海や夕日を眺めながら旅行ができる『リゾートしらかみ』という観光列車を走らせていますが、東京から新幹線を利用していらっしゃる方が多い。ほかにもこうした観光路線をつくれないか検討中です」と話す。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(矢島宏樹、桜井義孝、奥谷 仁、小倉和徳=撮影)