「いよいよ首都直下型地震が起きたか」。新幹線運行本部長の細川明良(12年3月1日付で鉄道事業本部運輸車両部長)は大きな横揺れを感じて即座に会議を中断。運行指令室に飛び込んだ。室内にあるコンピュータの端末が机から落ちる。それを必死に押さえながら、近くに並んでいる地震計を見ると、震源地は東北。「地震計に信じられないような値が表示された。これは相当な被害が出たんだろうなと思いました」と細川は振り返る。
JR東日本の新幹線早期地震検知システムは、97カ所に設置した地震計を使用している。地震のP波(初期微動)やS波(主要動)を検知し、一定の基準値に達すると自動的に送電をストップし、新幹線には自動的に非常ブレーキがかかる。今回は宮城県牡鹿半島に設置した地震計がいち早く地震を検知し、送電を停止した。仙台付近を時速270キロ程度で走行していた新幹線は、最大の揺れが到達した時点では、時速100キロ程度にまで速度が落ちており、安全に停止した。それでも細川には「これだけの大地震で脱線も何も起きないという事態は考えられなかった」という。
地震発生の時点で運行されていた新幹線は全線で53本。すぐに全列車に対して安否の確認を取った。最後に連絡が取れたのは午後4時ごろ。回送列車が1本だけ脱線していたものの、乗客が乗っている営業列車で脱線していたものはなく、指令室に安堵感が広がった。
「この指令室でも全指令員を対象に年4回、シミュレーターを使って地震訓練をやっています。新幹線の列車がどこに止まったので設備の確認はどうやって対応するかとか、止まった列車をどう進めるかとか、お客さまをどうするのかといった訓練を定期的にやっています。避難所が満員で自治体から収容を断られる事態だけは想定外でしたが、この訓練のお陰である程度は考えていた通りに進めることができたのです」(細川)