介護を生きがいにしない

70代になれば、家族の介護に直面する人も増えてきます。これまでも配偶者を介護することは70代にはよくありましたが、いまでは、70代の子が90代の親を介護するということも増えています。

和田秀樹『70代が老化の分かれ道』(詩想社新書)
和田秀樹『70代が老化の分かれ道』(詩想社新書)

介護にかかわる際に、ぜひ、気をつけていただきたい点が1つあります。それは、介護を「生きがい」にしないという点です。

70代になって退職し、次の仕事や趣味などもなく、これといって毎日やることがなくなった人に限って、介護を次の生きがいにしてしまう人がいます。

時間はとにかく自由になりますから、一生懸命、介護に取り組むことができます。すると、自分は相手の役に立っているという満足感は得られますし、介護される人から感謝されることもありますので、いっそう介護にのめり込んでいくのです。

しかしこういった介護へのかかわり方は、その人の晩年を駄目にしてしまう可能性が高いのです。介護される人も、介護してくれる家族が自分の介護で不幸になることを望んではいないはずです。

なぜ、介護にのめり込むと、その人の晩年が駄目になってしまうのでしょうか。

まず、介護とは、嫌な言い方をすれば、「時間つぶし」には最適だということがあります。やろうと思えば、あっという間に丸一日、それだけでつぶれます。そうなると、自分のための時間はまったくとれなくなります。

介護は3年続くのか、5年続くのか、それとも10年続くのか、終わりのわからないものです。それだけの期間、ずっと自分の時間を介護に注いでいると、これまでの友達とは縁遠くなりますし、趣味もつくれず、娯楽の時間も皆無になります。そうした生活が続くと、当然、精神的にも追い詰められてきて、メンタルを害することもあります。

精神的にきつくなってくると、在宅介護をしていても、要介護の人に対して暴言などの虐待行為をしてしまうケースも出てきます。在宅介護をする家族の3~4割の人が、暴言などの虐待経験があるというデータもあります。

70代は体力的にも若いときより落ちてきていますから、介護にのめり込めばのめり込むほど、身体を壊してしまうリスクも高まります。

介護を生きがいにするということは、まず、介護者の心身を壊しかねない危険性があるのです。