「良い兵士」と「悪い兵士」

兵隊を切り捨てにするロシアの方針が、侵攻の泥沼化につながったとの指摘もある。米シンクタンク「ランド研究所」のダーラ・マシコット上級政策研究員は、米政治専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿を通じ、兵を冷遇するロシア軍の文化が裏目に出たと論じている。

マシコット研究員は一般にアメリカでは、「良い兵士」「悪い兵士」という概念があると説く。良い兵士とは幸福な兵士であり、適切な食事、十分な給与、そして市民からの敬意を受ける兵士のことだ。多くのアメリカ兵はこれに該当するといえるだろう。

一方でロシアは、兵士の生活水準に無関心な文化を維持しつづけてきた。アフガン紛争やチェチェン紛争などの例を引くまでもなく、ロシアの兵士たちは十分な事前情報と戦地に赴くための準備期間を与えられることなく、十分な装備もないまま最前線に送り出される。

今回のウクライナ侵攻に関しても、ベラルーシに駐留中であったあるロシア兵は、侵攻前日に移動を知らされたと証言している。

2009年5月6日。パレード中のロシア軍の編隊
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過度の秘密主義が招いた混乱

このように兵への伝達が直前に行われるのは、兵を軽視する文化が根底にあり、作戦の機密保持が過剰に優先されるためだ。

マシコット研究員は、「軍のほぼ全体」の少なくとも一般兵に対して計画が秘密とされ、これによりロシアは「準備の度合いを危険にさらし、自ら不利な条件を課している」と説く。

機密保持の必要性はある程度理解できるにしろ、結果としてその戦略が功を奏したとは言い難い。実際のところ、侵攻の計画は事前に西側にある程度察知されていた。それでもプーチンは兵を危険にさらし、侵攻の強行を選択する。

マシコット氏は、「実に、作戦上の機密がすべてに優先し、兵士たちを簡単に犠牲にできるとでも考えていない限り、侵攻前のロシアの戦略について意図をくみ取ることは難しい」と述べる。

無理な作戦を決行した結果、現地からは悲惨な報告が相次いでいる。荒すぎる計画の犠牲となり凍傷を負ったロシア兵を、衛生兵が44年前に作られた応急処置用の当て布を使って処置したとの話が聞かれるようになった。

別の前線では水も食料もない状態となり、司令官が何の前触れもなく姿を消した。あとには何も知らない兵士たちだけが取り残されたという。

プーチンはすでにNATOに敗北している

明らかな準備不足により、兵の練度も装備品の数もまったく足りていない。米保守派サイトの編集者を務めるジョン・ガブリエル氏は、米アリゾナ・リパブリック紙への寄稿を通じ、プーチンの軍事的損失は「驚くべき規模」だとの見解を述べている。

ロシア軍は明確に苦戦しており、同記事によると、将軍クラス9名と大佐クラス42名の軍人を失ったという。また、ロシアの戦車1170両および航空機119機がこれまでに破壊されたとウクライナ国防省が発表している(5月21日時点)。