氏は、「侵攻からおよそ3カ月となった現在、プーチンは悲惨なまでの敗北を回避するための手段を急速に失いつつある」と論じる。「軍事超大国というロシアの見掛け倒しのステータスを粉々に打ち砕き、彼の政権全体の未来を危機に追いやる敗北だ」とし、その最大の要因は、ロシア軍内部の統率不足による反乱リスクだという。

「ロシア帝国の崩壊前夜に酷似」との指摘も

ロシアにとって最も大きなリスク因子は、かねてささやかれている兵士の士気の低さだ。クジオ氏は、「ロシア軍内部で士気は急下降を続けており、最終的には1917年(のロシア革命)のような形で崩壊に至る可能性がある」と指摘する。

ロシア革命は、第1次世界大戦中の食糧難を受けたデモ行進に端を発する。制圧のため軍が派遣されたが、かねてより不満を募らせていた兵士らの一部がデモ隊側に回ったことで、暴動はかえって拡大した。うねりは首都から各都市へと広がり、ロシア帝国崩壊とソ連誕生への流れを形成する。

1917年のロシア革命で壁から剝がされたロシア皇帝の肖像画、アレクサンドル3世(右)、アレクサンドル2世(中央上)、ニコライ2世(左)
1917年のロシア革命で壁から剝がされたロシア皇帝の肖像画、アレクサンドル3世(右)、アレクサンドル2世(中央上)、ニコライ2世(左)(写真=Unknown author/PD-RusEmpire/Wikimedia Commons

当時の状況は、今回のウクライナ侵攻にもよく似ている。短期戦と思われていた大戦・侵攻の長期化、悪化する国内の生活水準、不満の募る兵など、ウクライナ侵攻後の展開はまるでロシア革命の前夜をなぞるかのようだ。

経済制裁に市民が疲弊し、冷遇される兵の不満が募れば、やがてプーチン政権の足元は揺らぎはじめる。これがクジオ氏の示すひとつのシナリオだ。

上官と法廷闘争へ…不満の表面化がはじまった

現在のところ軍崩壊には至っていないが、上層部に対する不満はすでに表面化しはじめている。日々高まるロシア兵たちの不満が、ついに法廷闘争へともつれ込んだ。ロシア国境警備隊に所属していた25名は、ウクライナへの侵攻命令を拒んだことで解雇されたことを不服とし、ロシア国内で上官を相手取り訴訟を起こした。

この訴訟は、数ある派兵拒否騒動の氷山の一角にすぎない。人権弁護士のパベル・チェーコフ氏によると、すでにロシア国内の17以上の都市と地域から、「数百人もの警備兵」が氏に法的助言を求めている。今後、訴訟を起こした25名に続く可能性がある。

危険な任務を嫌っての派兵拒否もさることながら、おなじスラブ人を攻撃することに強い抵抗感を覚える兵士も相当数に上る模様だ。英デイリーメール紙は、徴兵対象となった兵士の最大40%が侵攻への参加を拒否したと報じている。