あらゆるエリアで、“狩猟民族”に対抗できるだけの数値を要求

エディーさんは、ベスト8進出という長期的なビジョンを達成するために、選手たちに中期、短期のあらゆる目標を示した。個々人にはトレーニングでウェイト、フィットネスなどあらゆるエリアで、“狩猟民族”に対抗できるだけの数値を要求した。

「設定したゴールに到達するためには、現状と目標の間にどれほどのギャップがあるのか。それをどう埋めるのかを考えなければいけません。その見極めが大切で、決して楽観的になってはいけない。現実を見つめ、そして具体的な行動をプランニングすることが強いチームをつくるのです」

日本代表以外にも、数々のチームを率いて実績を挙げてきた

エディーさんのチームづくりは、ビジョンの提示だけでなくこのプランニングも巧みで、計画の実施にも明確な方法論がある。かつて私が聞いたのは、「集団において上位10%のメンバーにはコーチングは必要ない。なぜなら、彼らは放っておいても自分たちで成長しますから。コーチングで最も効果があるのは下位10%です。そこを手厚くサポートし、ボトムアップすれば、チーム力は大きくアップします」という考えだった。これもビジネスからの知識を応用したものだったという。

「ギャップの在り処を見極め、そこに焦点を当てます。勝利に対してもっとも影響力が大きいエリアを定め、そこに対して時間、労力を投下することで短期的に生産性を上げ、成果を手にすることができます」

ラグビーにおいてはそれが体をつくるトレーニングというわけだ。目標値に到達するために、24時間をフル活用した。

「選手たちは毎朝5時に起きて、『ヘッドスタート』と呼ばれる体を大きくするトレーニングに励んでもらいました。食事の後には朝寝の時間も指定しましたよ。回復には睡眠が必要な要素だったので。それから午前中にユニットごとに練習をし、夕方には全体練習で進捗状況を確認しました」

こうしたプランニングによって、実際にすべての選手がパーソナルベストを更新し、W杯を迎える頃には、ワンサイズ上のジャージを用意しなければならなくなっていた。

また、試合に向けては対戦相手への意識づけも用意周到だった。W杯の3カ月前の合宿では、1週ごとに「南アフリカ・ウィーク」「スコットランド・ウィーク」と名付け、対戦相手ごとに独自の対策をインストールした。

「試合が近づいてきたら、漫然とした練習では焦点がぼやけてしまいます。具体的な練習計画、そしてネーミングといった演出も大切になってきます」

周到なプランニング、準備の結果、15年のW杯で日本はその生産性を最大化させることに成功。過去7大会でわずか1勝しか挙げられなかったチームが、南アフリカに勝っただけでなく、一気に3勝し、日本のラグビーの歴史を変えた。