資源を食い尽くす大規模畜産は限界を迎えている

日本の一般的な大規模養豚場では、自動給餌機による効率的な飼育が行われている。そこは“満員のライブ会場”にも似た空間で、ひとたび病気が発生すれば多くの豚が一気に感染してしまう。それを防止するにはやむを得ず抗生物質を投与し、感染経路となり得る外界との接触から完全隔離する方法を採らなければならない。こうした大規模飼育が私たちの食生活を支えてくれているのも事実である。

一方で「農場こぶた畑」を経営する相原海さんは、「市場原理の中で利益を追求する形もあれば、数頭の豚と向き合いながら、1頭1頭の表情を大事にしながらやっていく養豚業もあります」と話す。現状の産業形態をすぐに変革することは難しいが、資源消費型の大規模畜産が地球のキャパシティを超えていると指摘されている以上、これを転換できなければ畜産業に未来はない――相原さんはそう考えている。

野に生える草も豚の餌になる
筆者撮影
野に生える草も豚の餌になる

「豚肉1トンのために6トンの飼料を輸入」する現状

追求するのは、養豚の原点回帰だ。「昔の農村は各家庭で豚を飼っていました。豚は人間の食べ残しを食べ、そして肉を提供してくれる『循環の動物』だったのです」(同)。

4月から始まったNHK朝ドラ「ちむどんどん」では、主人公の自宅で飼われている2頭の豚の1頭が、お客さんをもてなすための“ご馳走”になってしまうシーンがあったが、昭和の時代は、首都圏の農家でも自宅で豚を飼う世帯は少なくなかった。

「農場こぶた畑」では、地域の店舗が提供してくれるパンの耳やうどんくず、鰹節や昆布などを集め、発酵させたものを餌として与えているが、そこには「輸入の餌には頼らない」という相原さんの姿勢がある。

農林水産省の試算によれば、日本国内で食肉1キロを生産するのに必要なトウモロコシは牛肉なら11キロ、豚肉は6キロだと言われている。つまり、1トンの豚肉を生産するためには、米国から6トンのトウモロコシを輸入しなければならない。国土の7割が森林に覆われる日本は機械化を前提にした大規模農業が困難で、飼料の9割を海外から輸入に依存している。「それなら最初から1トンの肉を輸入したほうが早いじゃないかという意見もあるくらいです」と相原さんは語る。