筆者が4月下旬、フィンランド国防情報トップを務めた元将官にNATO加盟の見通しを尋ねると「99.9%加盟することになる」と答えた。1948年生まれのニーニスト大統領は政治キャリアも45年に達する。方や「インスタ世代」のマリン首相は36歳と若く、軽率な行動で物議を醸すこともあるが、元将官は「首相というポストが彼女を成長させた」と応じた。

NATO加盟をリードし、ウラジーミル・プーチン露大統領と直接やり取りするのはやはり年長者のニーニスト氏。もともとNATO加盟には慎重だったリベラル派のマリン氏は「今議会に加盟申請を提案する可能性は否定しないが、極めて低い」と発言して批判を浴びたものの、ロシア軍がウクライナに侵攻してからは一貫して「鉄の女」ぶりを発揮している。

マリン氏が2019年12月、フィンランドで史上最年少の首相に就任した時、34歳。同国の首相就任時の平均年齢は約52歳だった。当時「世界で最年少の現職首相」(英紙ガーディアン)と報じられた。オンライン百科事典、ウィキペディアによると、今でも世界で3番目に若い国家指導者だ。

「百貨店チェーン、ソコスのレジ係」

その頃、ロンドンにいたフィンランド国営放送(YLE)の政治記者クリスティナ・トルッキ氏はこう書いている。「イギリスは保守党のボリス・ジョンソン首相が総選挙で大勝した話題で持ちきりだった。列車の車掌にサンナの写真を見せると、名前は出てこなかったが、確か世界で一番若い首相ですよねとだけ答えた」

フィンランドの首相官邸には世界中のメディアから400件以上の取材申し込みがあった。マリン氏に付けられたレッテルは「世界最年少の現職首相」「34歳の女性」「貧困家庭の出身」「百貨店チェーン、ソコスのレジ係」。トルッキ記者は「どのようにして低所得者家庭の娘が大学に進学できたの」「なぜフィンランドの政治家は若いの」と質問攻めにあった。

英メディアのお気に入りはマリン氏がサウナでトルッキ記者に政治的野心を隠さなかったという話だ。エストニアの内相は「セールスガールが首相になった」とあからさまに馬鹿にした。17年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が就任した時、マリン氏より政治キャリアが短かったのに経験不足を指摘する声はそれほど上がらなかったのに。

マリン氏は工業都市タンペレの労働者階級の家庭に生まれた。アルコール依存症の父と離婚した母の次のパートナーは女性だった。「外で家族のことをオープンに話せず、自分は周りからは見えない『透明人間』のように感じたこともある」とマリン氏は地元オンラインメディアに話している。しかし母親は自分が望めば何でもできると信じさせてくれたという。