100キロ行軍中の自衛官を襲う支離滅裂な思考
陸上自衛隊の訓練で、「100キロ行軍」というものがあります。隊員たちは小銃、鉄帽(ヘルメット)、半長靴といった装備で、水、食料、着替えなどの荷物を持ち、100キロ歩いて移動するというものです。荷物の重さは通常隊員で20kg、レンジャーなら40kg程度で結構重いです。さらに小隊には、機関銃と対戦車兵器(地雷、無反動砲)などが与えられます。
100キロ行軍の最後のほうでは、疲労と眠気で自分自身の思考がよくわからないことになり、
「……中学生のときに大阪に住んでみたいと思ってた……そうだ、たこやき屋をやろう……朝から焼酎呑めるたこやき屋をやろう……」
といった支離滅裂な思考に襲われます。疲労と睡眠不足は人の能力を著しく低下させます。たしかに過酷な状況で踏ん張ることも時には必要ですが、最低限の休憩を取ったほうが自分の能力を十分発揮することができます。
米軍はリラックス法やすぐに眠れる技術を研究している
私は陸上自衛隊幹部候補生学校の教官に、
「どんなに最悪な状況だと思っても、仮眠の計画だけは最初に作れ。最悪な状況は、最悪への導入にすぎないからだ」
と教わったことがありますが、まさにそのとおりだと思います。
特に地震での災害派遣では、徹夜で活動して一息つこうと思った瞬間に本震がやってくることがあります。個人はもちろんのこと、組織も短期決戦ばかりを想定してはいけないのです。しかし、陸上自衛隊は短期決戦型の演習が多かった印象があります。
その一方で、米軍は数年間戦えるような演習計画をします。米軍は、
「戦争は決して3日では終わらない」
と考えているので、できる限り休憩を取りながら進めていくようです。
実戦経験の多い米軍では、自衛隊よりも「睡眠・休養」を重視しているように思えます。そのため、リラックスできる方法やすぐに眠れる技術なども研究しています。米軍は、睡眠不足はパフォーマンスを下げるということを実戦経験から知っているので、緊急時でもできる限り、休息や睡眠の時間を確保します。