寒冷な気候条件により国民一人当たりの電力消費量がEU域内でもトップクラスとエネルギー消費量が多く、輸入エネルギーのうち約53%を隣国ロシアに頼っているからだ。
3月1日にはマリン首相が国営放送のトーク番組で「できるだけ早く脱却するために取り組んでいる」と発言。緊急課題は、2022年~23年の冬のエネルギーの確保と、急激な価格上昇の回避だ。
皮肉にも、翌日3月2日にガソリンの値段が大幅に値上げされ、1リットル2ユーロ(約270円)を越えた。
以来、巷で聞く声は「車通勤はやめて自転車かスクーターにしないと」という節約を促すものから、「小麦が高くなったらパンの値段もはねあがる」「日持ちのするものはまだ安いうちに買っておこう」などと、日用品の備蓄を促すものにまで広がった。
薬局の棚から消えたヨウ素剤
買い占めは、コロナ禍初期の経験がいかされ、スーパーの棚という棚が空になるほどのパニックは起こらなかったが、フィンランド各地の薬局からすぐに品切れになった錠剤がある――安定ヨウ素剤だ。
1986年にチェルノブイリ原発事故の恐怖を味わった高齢者世代が薬局に押しかけたのだ。
「フィンランドは安全です!」と声高らかに繰り返す首相
このような不穏な空気に対するフィンランド政府やメディアの反応は早く、ニュース番組では「フィンランドは安全です!」と声高らかに繰り返すサンナ・マリン首相の姿が報じられた。
また、精神的な不安を感じる人に対しては、コロナ禍の初期と同様、メンタルヘルス・ホットラインの活用が呼び掛けられた。この国では有事にはまず、国民の精神衛生を気づかう。
情報の伝達の速さも手伝って、4月6日~11日にかけて行われた政府によるインターネット調査では、回答者の41%が「フィンランド当局はウクライナの危機などの深刻な混乱に十分な備えができている」と答えた。
どっちにしろロシア依存をやめるつもりだった
エネルギー不足については、一応対応済みだ。
輸入エネルギーの半分をロシアに頼ってはいるが、フィンランドのエネルギー自給率は2019年に55%に達している。
昨年SDGs(持続可能な開発目標)の達成度1位の座に就いたフィンランドは、2035年までにカーボンニュートラル、2030年代末までに発電・発熱において化石燃料を使用しない世界で初めての国の実現を目標にしているので、どの道ロシアからの輸入に頼ってきた枯渇性エネルギーからの離脱は成すべき課題だった。
フィンランドのエネルギー業界は今年、政府からの支援を受け、クリーンエネルギーと強力な送電網のために30億ユーロ以上を投資するという。
具体的な動きはもう始まっている。4月7日、フィンランドの石油精製会社Nesteは、ロシアから輸入していた原油の一部をノルウェー産に切り替え、ロシアからの購入量の約85%を他品種の原油に置き換えることに成功した。
電力の輸入先もスウェーデンが頼りになり、今年6月にオルキルオト原子力発電所の3号機が順調に稼働すれは、エネルギーの自給率はさらに上昇する。上記により、エネルギー面での不安の大部分は払拭することができたといえよう。