主題歌やタイアップしたお菓子は飛ぶように売れた

『アトム』はまた、現在では当たり前になったアニメに付随するビジネスを興した。

まず、オープニングの主題歌である。子ども向けのテレビ番組の主題歌には『月光仮面』(1958~59年)など先行例はあるが、『アトム』主題歌を収録したソノシート付きの『鉄腕アトム・第1集』は120万部を売り上げたという。谷川俊太郎作詞、高井達雄作曲の主題歌は現在でも我々の耳に馴染み、以後、テレビアニメの主題歌は「アニソン」として、ときには本編のアニメから独立し得るポップカルチャーになった。

『アトム』のスポンサーとなった明治製菓の看板商品の一つ、マーブルチョコの発売は『アトム』放送開始の2年前である。当時は子ども向け菓子商品の販売競争が激烈で、トップメーカーの森永製菓がよく似たコンセプトの菓子「パレード」を発売すると、それまでマーブルが糖衣チョコの9割を占めていた市場シェアが3割にまで落ち込んだという。

偶然にも『アトム』のスポンサーだった明治製菓は糖衣チョコの市場を取り戻すべく、63年7月、マーブルチョコのフタ2枚を送るとアトムシールがもらえるキャンペーンを実施した。

人気漫画のテレビアニメ化が定番となったワケ

すると、連日数万通もの応募の封筒が届き、100人以上のアルバイトを雇ってさばいた(社内報「メイカ」第9巻第8号、1963年8月)。翌年3月から、アトムシールは「おまけ」としてマーブルチョコに封入されることになり、人気アニメとタイアップする菓子、そしておまけというビジネスモデルの先駆けとなった。

そして、『アトム』の最大の成果は、人気漫画のテレビアニメ化である。連載中の人気漫画をアニメ化すれば、その漫画の読者はアニメの視聴者となる。一方、アニメで初めてその作品に接した視聴者は、原作漫画の新たな読者になり得る。アニメと漫画、視聴者と読者との双方向性が明瞭になり、後続のテレビアニメに活かされた。

マンガのイメージ
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