ウクライナへの侵攻を「聖なる戦い」として演出しているロシア正教が世界中から非難されている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「仏教・神道・キリスト教など日本の宗教も、日清・日露・第2次大戦に積極加担していた過去がある。国家権力と結びついた宗教は暴走を始め、人民救済という本分を忘れてしまう」という――。
モスクワの赤の広場に立つロシア正教会の聖ワシリー大聖堂
筆者撮影
モスクワの赤の広場に立つロシア正教会の聖ワシリー大聖堂

なぜ、宗教が戦争を止めずに賛美し加担するのか

ロシア正教会が戦争に積極的に関与し始めている。ウクライナに出征する兵士や戦車に、司祭が聖水を振りかける場面などが報じられるなど、プーチン政権との蜜月の関係に非難が相次いでいる。宗教の立場で「聖なる戦い」を演出し、国民を鼓舞するのが目的だ。

国家と宗教との緊密な関係は、今日のウクライナ戦争に始まったことではない。日本の仏教も、戦争や植民地政策に積極加担していた過去があった。

聖戦――。それは、神の名において行われる戦争のことである。宗教が始めた戦争は枚挙にいとまがない。もっとも有名なのは中世における十字軍の遠征だろう。十字軍は聖地エルサレム奪還のため、ローマ教皇の名の下に組織された。そして、中東地域における覇権拡大のため、およそ200年にわたる戦いを繰り広げた。

近年では、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ以降の戦争がある。イラクやアフガニスタンなどで繰り広げられた戦いは、キリスト教とイスラム教の宗教戦争でもあった。当時のブッシュ大統領は、イスラム原理主義組織との戦いを「十字軍の戦い」と表現した。対し、イスラム原理主義組織もまた「ジハード(イスラムを守り抜く戦い)」と呼び、泥沼の20年戦争へと突入した。