※本稿は、齋藤孝『60代からの幸福をつかむ極意』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
持ちたくないのに持ってしまう「嫉妬心」
神経を疲れさせるものといえば、嫉妬があります。
シェイクスピアの四大悲劇の一つ「オセロ」は、嫉妬によってすべてが崩壊していく物語です。「お気をつけください、将軍、嫉妬というものに。それは緑色の目の怪物で、人の心を餌食として弄ぶのです」というセリフが有名ですが、出世の嫉妬と男女の嫉妬を通じて、人間の醜さ、恐ろしさが描かれています。
嫉妬が卑しい感情であることは、誰もが認識しているでしょう。ネガティブな思考が次々と折り重なるばかりで、得られるものは何もなく、結局自分が疲れるだけであることも知っていると思います。できれば持ちたくないものですが、それでも日常の中で嫉妬心に苛なまれることはよくあります。だからこそ「怪物」なのです。
バードランド・ラッセルも、〈総じて、普通の人間性の特徴の中で、ねたみが最も不幸なものである〉と言及しています。それは、自分が持っているものから喜びを見出すのではなく、他人が持っているものを奪いたい、他人に災いを与えたいという感情だから。このあたりはおおいに納得できます。
テレビを見ながらできる「嫉妬心を制御するトレーニング」
では、それをいかに制御するか。ラッセルはいくつかの処方箋を提案していますが、その一つは、嫉妬の対抗馬として〈賛美の念〉を増やすこと。つまり、相手をうらやんだり嫌ったりする前に褒めるべき点を探そうというわけです。
これについては、簡単なトレーニング法があります。例えばテレビ番組であまり好きではないタレントやアーティストを見たとき、「どうしてこんな人が出ているんだ」と思うのではなく、多少無理をしてでも「この発言には共感できる」とか「この曲はいいね」などと好意的に評価してみるのです。そうすると案外、今まで嫌っていた理由がよくわからなくなったりするものです。
実生活でも同じこと。自分より社内で人気のある部下とか、いつの間にか自分より出世した後輩とか、子ども自慢をしてくる同僚とか、世の中に嫉妬のタネは尽きません。そのたびに素直に反応していては、まさに「怪物」になってしまうだけ。だからその前に、なぜ人気があるのか、なぜ早く出世したのか、なぜ子どもが優秀なのかを探求し、正当に評価するよう心がけるわけです。