また、先週話した40代のあるテレビマンは、「妻はNetflixで韓国ドラマ、子どもはYouTubeばかり見ている」と苦笑いしていた。コロナ禍の約2年間、ずっとこんな様子が続いているのだから、自信が持てなってしまうのも当然だろう。
その危機感は、日本テレビならHulu、テレビ朝日ならTELASA、フジテレビならFOD、TBSとテレビ東京ならParaviという自社系列の動画配信サービスが、放送による広告収入の低下をカバーするような成果を上げられていないことも理由の1つとなっている。
だからこそTVerへの期待値は高く、現時点では「ここで人々を引きつけておかなければ未来はない」「TVerでウェブ広告を得ることを真剣に考えなければいけない」というのが彼らの本音だ。しかもコロナ禍に入ってから、TVerを中心にした見逃し配信の視聴が急カーブで上昇している。
フジテレビが水曜22時にドラマ枠を新設したワケ
実際、フジテレビは3月の見逃し配信数が6455万再生の過去最高値を記録。前年比305%、月間ユニークブラウザ945万という強烈な数値であり、同局だけでなくTVer全体の動画再生数やアクティブユーザー数が増えているため、「今はここを伸ばすことに注力すべき」という声が上がっているのだ。
フジテレビはそんな戦略を裏付けるように今春、水曜22時台にドラマ枠を新設した。「ドラマはバラエティーより5~10倍の配信視聴数が得られる」と言われている上に、「NetflixやDisney+などと連携して海外配信で稼ぐ」という新たなマネタイズも期待されている。
放送による広告収入より配信収入を増やす
TBSも今春に配信との連動をベースにしたドラマ枠「ドラマストリーム」を新設した。同局は昨年から「TOKYO MER~走る緊急救命室~」「日本沈没 希望のひと」を海外配信していたほか、今春放送の「マイファミリー」もDisney+で世界配信されている。
彼らは2030年に向けて、メディアグループからコンテンツグループへの転身を明言するなど、「どの局よりも危機感が強い」と言っていいかもしれない。
「放送による広告収入だけではなく、配信収入を増やすことが最重要であり、TVerはその突破口」という認識が局を超えてテレビマンの間に広がっているのだ。
批判を招いた要因① ライバル局が集まる難しさ
では、なぜ今回のような批判を招いてしまうのか。その理由は、組織の大きさとビジネスモデルによるところが大きい。
もともとTVerは民放キー局5社と大手広告代理店4社の共同出資で設立され、のちに在阪の準キー局も加わり現在に至る。
テレビ業界でなくても、大企業、しかもライバル企業が集まれば、牽制し合うとまでいかなくても、どこか声を上げにくいようなムードが漂ってしまうもの。
例えば、「本当はちょっと気になっているが、他社さんたちがそれでいいならウチも異存ない」という行為が生まれやすくなる。とりわけユーザーインターフェースなどの「細部に見えて実は重要なところに目が行き届かない」というケースは少なくない。
一方で、「各局をまとめなければいけない立場のTVerが、その大きな役割をこなしきれていない」という声を何度か耳にしたこともある。
各局には社内事情や戦略の違いがある上に、担当者個人の意見も一致するとは限らない。こういうケースでは、往々にしてユーザーより関係者のほうに意識が向いた落としどころになってしまい、批判につながっていく。