娘が幼い時のエピソードを父と母は思い出していった

すると、困惑している父親の横にいた母親から次のようなエピソードが出てきました。

車のクラクションや花火の大きな音をものすごく怖がっていた。

家族旅行で海に行っても決して海に入ろうとしなかった。

幼稚園の頃、お遊戯会のダンスの振り付けをなかなか覚えることが出来ず、先生に怒られていた。

長女が小学校低学年の頃、ランドセルに何も入れずに帰宅したことがあり、母親がその理由を聞くと「ランドセルに教科書や筆記用具を入れて持ち帰るようにと先生から言われなかったから」と答えた。

また、長女は勉強でも苦労していたようです。漢字をノートに何度書いてもなかなか覚えることができない。時には「なんで私は覚えることができないの?」とあまりの情けなさに泣きながら書き取りをしていたこともあるそうです。計算もケアレスミスが多く、文章題になるとその内容が頭に入らず、とても苦労していました。

周りの状況をふまえてその場にふさわしい言動をする、いわゆる「空気を読む」といったことも苦手でした。例えば、学校の教室で級友がスポーツの話で盛り上がっているのに長女は興味が持てず、自分の興味がある芸能人のうわさ話を一方的に始めてしまう。相手の様子や反応を一切気にすることなく一方的にしゃべり続けてしまうといったこともあったそうです。

当時のエピソードをメモし終えた筆者は両親に告げました。

「今お話いただいたようなことを現在に至るまで病歴・就労状況等申立書に記載していきます。また、医師に診断書の作成をお願いする前に、ご長女様の現在の状況を参考資料としてまとめ、医師に見てもらう方が望ましいでしょう。ご長女様のご自宅での様子が医師にしっかりと伝わっていないと、ご長女様の状況がしっかりと反映されない内容の診断書になってしまう可能性もあるからです」

父親は自信なさげにつぶやきました。

「結構大変そうですね。果たしてそこまでできるかどうか……」
「もしよろしければ、病歴・就労状況等申立書や参考資料は私(社会保険労務士)のほうで作成しますよ」
「それは助かります。ぜひお願いします」

両親はほっとしたような表情を見せました。

その後も両親と何度も面談を重ね、必要書類を揃えた筆者は障害年金の請求をしました。

障害年金の請求をしてから4カ月が過ぎた頃、父親から連絡がありました。

「おかげ様で長女は障害年金の2級が認められました。長女も障害年金が受給できるようになって安心したようで、『月4万円を稼ぐのなら何とかなりそう。もう一度仕事を頑張ってみる』と言ってくれました。現在は親子で就労支援先を探しているところです」
「それはひと安心ですね。もしご長女様の承諾が得られれば、就労支援先でも病歴・就労状況等申立書や参考資料を読んでもらうとよいかもしれません。ご長女様の特性(発達障害の特徴)を理解してもらい、それに合うような支援を受けられる可能性もありますので」
「わかりました。長女にもそのように伝えてみます。この度は本当にどうもありがとうございました」

一度は絶望を抱えた長女ですが、それでも前に進むことができた。父親からそのような報告を受け、筆者はうれしい気持ちになりました。

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