会社から経済基盤と生活リズムを得る

1998年に大学に入ると、「65点の凡才」を「100点の天才」にしてくれるかもしれない波に遭遇。パソコンとネットである。まずはパソコンを使った映像制作に、次にネット上のブログに心血を注ぐ。個人ブログが本になる時代、「誤変換」を本にさせてくれ、という申し出が3人もの編集者からあった。

大学には6年在籍したが、いつまでも学生でいるわけにはいかない。普通に就職し平凡な会社員となるか。針の穴ほどの可能性に懸けてクリエーターを目指すか。ヨシナガ氏はどちらも取った。就職して会社員をやりながら、創作活動も絶やさない。まさにハイブリッドな生き方である。会社員であることのメリットを問うてみると、氏はこう答える。

「僕は引きこもりタイプなので、毎朝の出勤が生活のリズムをつくってくれます。同僚との何気ない会話から、いい着想が浮かんだりもします。体力的には辛い面もありますが、それを補って余りある、別のエネルギーを会社から得ている感じですね」

あとは経済基盤が安定することだ。

「クリエーターとしては超一流なのに、その場のお金が入らないことで人生を棒に振った人を何人も知っています。その点、会社員としてもうひとつの稼ぎ口があれば、そういう辛酸もなめずに済む」

物心両面で、氏の創作活動を支えているのが会社なのだ。

氏の目標は、世界中に知れ渡るような著名キャラクターをつくり出すこと。「ものづくりは続けることに意味がある。才能は65点しかない僕が続けられるのも、会社員だから」と冷静に自分を見ている。

ヨシナガ氏の勤務先は超大手の企業。出身大学も私学の雄だ。社名と大学を“入力”すると、人もうらやむエリートサラリーマンができあがるはずだが、ヨシナガ氏自身、“誤変換”を経て生まれた世にも稀な作品のように思えてならない。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(梅原ひでひこ=撮影)