抗議しても解雇や侮辱される目に遭う

ハリウッドがこの世にあらわれた時から、「キャスティング・カウチ」という言葉があったという。

役をもらう代わりにプロデューサーやディレクターに体を任せるという意味だが、ロスアンジェルスの映画のプレミアが行われるチャイニーズ・シアターの近くには、実際に「キャスティング・カウチ」の彫刻が置かれているという。

この悪しき風習を徹底的に利用したのがワインスタインだった。彼は「女性たちを絶望的な状況へ突き落とした。性的要求に従うか、攻撃されるリスクを取るかの二者択一に。これは法的定義に該当しようがしまいが、明らかに性的虐待である」(同書)

それまでは、性的な暴力を受けていても、「たとえ抗議の声を上げても、解雇されたり侮辱されたりすることがよくあった。被害者の多くは身を隠さざるを得ず、支援されることもなかった。被害者の取るべき最善策は、沈黙を条件に賠償という名の口止め料をもらうことだった」(同書)

タイムズの記者たちは、多くの女優やワインスタインの下で働いていた女性たちを説得し、裏付けを取り、ワインスタイン側の執拗しつような記事差し止め圧力に屈しないで、報道した。

その結果、ワインスタインは逮捕され、30人以上に和解金2500万ドルを払った挙句、禁錮23年の刑が科されたのである。

日本の女性たちも声を上げると思われたが…

ワインスタイン報道が出てから数カ月もたたずして#MeToo運動が爆発的に広がり、デートレイプから子どもへの性的虐待、男女差別などの問題が議論されるようになった。

アカデミー賞俳優のダスティン・ホフマンやケビン・スペイシーも過去の性的嫌がらせが告発された。スぺイシーは、自身も制作に参加していたNetflixの『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を降板することになった。

日本でも、伊藤詩織さんが、山口敬之TBSワシントン支局長(当時)に酔わされレイプされた。警視庁に被害届を出し、相手が不起訴になると、顔と実名を出して会見を開くなど、彼女の勇気ある行動に関心が集まった。

この国でも#MeToo運動が広がり、性被害を受けた女性たちが次々に声を上げるかと思われたが、そうはならなかった。

「男女平等」「女性が活躍できる社会」など浮ついた言葉が躍るだけで、法整備の問題、女性たちの置かれた状況の変革、世界で120位(2021年)という最低のジェンダーギャップ指数、マスメディアでさえいまだに男性中心社会であることなど、いくつも理由を挙げることはできる。

だが、ここへきて、週刊文春の報道がきっかけになり、日本でも性加害を受けた女性たちが声を上げ始めるかもしれない。

週刊文春を紹介してみよう。

榊英雄監督の性加害を女優4人が告発

「女優4人が覚悟の告白『人気映画監督に性行為を強要された』」(『週刊文春』3月17日号)

榊英雄(51)という監督は、俳優業もやり、脇役だが、NHKの大河ドラマにも出演していたそうだ。

監督としても、『誘拐ラプソディー』や『ハザードランプ』という映画を撮り、3月25日から性被害を扱った『蜜月』が公開予定だった。その彼が多くの女性を“毒牙”にかけていたというのだ。

まずA子さんのケース。榊のワークショップに参加していたそうだ。

「ワークショップが終わった後、連絡が来て『もう一回会いたい。飲みに行こう』と誘われました」

指定されたのは、渋谷・道玄坂の居酒屋だった。

「7時くらいから飲み始めた。食事中は変わった様子はありませんでした。私は当時、横浜方面に住んでいて終電が早かったので、2、3時間経ったころに、もう帰りましょうかと二人でお店を出たんです」

店を出てすぐに“事件”が起きたという。

「騒いだら殺すぞ」と凄まれ…

「A子さんは榊に引っ張られ、暗がりに引き込まれた。

『マンションの駐車場でした。奥の方の、通行人からは死角になる場所まで連れ込まれた。なんとか逃げようと「やめてください!」と声を出したり、強く抵抗しました』

だが、榊氏はA子さんの耳元でこう凄んだ。

『騒いだら殺すぞ』

A子さんが当時の心境を明かす。

『あまりの恐怖で、その一言は今でも鮮明に覚えています。榊は体も大きいし、強面です。その場でパンツだけ引きずり下ろされ、無理やり犯されました。もちろん避妊などされません。時間にして5分くらいでした。ことが終わると榊は「じゃ、またね」とその場から去りました』」

榊には土地勘があったようだ。これはまごうことなき強姦である。同じようなケースがB子、C子、D子にもあったというのだから、榊という男、性加害の常習者のようだ。

文春が取材を申し込むと、書面で回答があったという。

A子さんについては「肉体関係があったことはなく、ましてや『騒いだら殺すぞ』等と脅したこともありません」と否定した。

そのほかについては、合意だったとか、女性のほうから近付いてきたといっている。

榊は、「不倫行為については、妻にも謝罪し、許してもらっております。(女優らに)性行為を強要した事実はありません」と答えている。